JBpress autographの編集陣がそれぞれの得意分野でお薦めを紹介する連載「RECOMMENDED」。第8回はスタイリストの櫻井賢之さんがクリストファー ネメスのジャケットを紹介します。
スタイリスト=櫻井賢之 撮影=唐澤光也(RED POINT) 文=山下英介(初出:2020年11月27日)
1990年代を代表するデザイナー
皆さんは〝クリストファー ネメス〟をご存知でしょうか? それは僕の世代のファッションやサブカル好きにとっては、特別な響きを持つブランドでありデザイナーです。
ご存知ない方にご説明すると、クリストファー・ネメス氏はイギリス生まれのアーティスト兼デザイナー。パンクカルチャーから影響を受けたものづくりで現地ではカルト的人気を博しましたが、1980年代半ばから活動の拠点を日本に移します。
その後原宿にショップを構え、日本でストリートカルチャーが花開いた90年代に、爆発的なブームを果たしたのです。なかでも当時絶大な人気を集めたのが、ヒザに継ぎを当てた立体裁断のジーンズやロープ(縄)のアイコンで、これらは90年代当時の原宿では、ひとつの風景そのものでした。
実はこのアイコンには意味があり、本人のメモによると「どんなに貧乏であろうとも1本の糸さえあれば、それが縦と横に重なり、生地となり、服ができる。1本の糸は永遠のつながりであり無限の象徴でもある。家族、人生、社会、この世界のものはすべて繋がってストーリーができている」とのこと。当時は彼の洋服がもつ深いメッセージに気づくことはできませんでしたが、最近改めて、その偉大さに心打たれています。
近年高まる、再評価の機運
クリストファー・ネメス氏は2010年に惜しくも逝去されましたが、その存在は僕たち日本人のみならず、ロンドンのストリート世代にとっても特別です。なかでも代表格と言えるのが、1973年生まれのデザイナー、キム・ジョーンズ氏。彼は〝ルイ・ヴィトン〟を手掛けていた2015年のこと、突如のこと〝クリストファー ネメス〟とコラボレート。ストリートスタイルのアイコンだったロープのモチーフを、名門〝ルイ・ヴィトン〟のアイコンであるダミエ柄と組み合わせるという、大胆なコレクションを発表しました。ネメス氏へのリスペクト溢れるこのコラボレートによって、〝クリストファー ネメス〟はデジタル世代の若者たちにとっても、憧れのブランドであり続けているのです。
今手に入れるべき〝クリストファー ネメス〟
すっかり前置きが長くなってしまいましたが、今回ご紹介したいのは、そんな〝クリストファー ネメス〟のジャケット。そう、デザイナーのネメス氏なき今も、ブランドは彼が愛したご親族の手によって存続しており、原宿のショップも健在。その唯一無二のコレクションを楽しむことができるのです。
ブランドのアイコンであるロープ柄を前面にあしらったこちらは、一見ベーシックなカバーオール風ですが、ラグランスリーブのアームホールを非常に大きく設計しており、袖を通すと肘あたりにボリューム感が出る、面白いつくり。ただサイズを大きくしただけのビッグシルエットとは一線を画す立体的な裁断は、さすが〝クリストファー ネメス〟というより他ありません。90年代に青春を過ごした方にも、そうでない方にも、改めて注目してほしいブランドです。