JBpress autographの編集陣がそれぞれの得意分野でお薦めを紹介する連載「RECOMMENDED」。第4回はスタイリストの櫻井賢之さんが「フィア オブ ゴッド エクスクルーシブリー フォー エルメネジルド ゼニア」のジャケット&パンツを紹介します。
スタイリスト=櫻井賢之 撮影=唐澤光也(RED POINT) (初出:2020年10月16日)
"ありえない" コラボレート
2020年に発表された、〝エルメネジルド ゼニア〟と〝フィア オブ ゴッド〟のコラボレーションには、本当に驚かされました。
JBpress autographの読者の皆様にとって、極上の生地や仕立てで名高いイタリアブランド〝エルメネジルド ゼニア〟は十分なじみ深い存在だと思いますが、〝フィア オブ ゴッド〟に関してはまったく知らないという方も多いのではないでしょうか?
ストリートの寵児ジェリー・ロレンゾ
ごく簡単に説明すると、〝フィア オブ ゴッド〟とはデザイナーのジェリー・ロレンゾがL.A.で設立した、いわゆるラグジュアリー・ストリートブランド。近年では、〝ナイキ〟とのコラボレートで注目されています。
グランジロックやスケート、バスケットボールといったカルチャーを背景に持つこのブランドが提案するのは、フーディやスニーカーといったオーバーサイズのカジュアルウエアが中心。テーラリングウエアなんて見たこともありません。長年サルト(仕立て職人)の技を生かした上質なスーツやジャケットをつくり続けてきた〝エルメネジルド ゼニア〟とは、まさに水と油のような存在ですから、両者がコラボレートするなんて、想像もしていませんでした。僕はどちらも大好きなんですが(笑)。
早速発売されたスーツをチェックしてみたところ、やはり従来の〝エルメネジルド ゼニア〟とは全く違う発想でつくられた1着だと実感しました。このブランドの持ち味といえば、サルトの手仕事を駆使したナチュラルかつ完璧なフィット感ですが、こちらは1980年代を彷彿させるかなりのルーズフィット。しかも2つボタンのノーカラーという攻めたデザインです。しかし実際に着てみると、この意外性が見事にマッチしています。
カットソーやスニーカーと合わせられる遊び心あるデザインは、今までの〝エルメネジルド ゼニア〟にはなかった感覚ですし、その上質な仕立てや生地は、今までの〝フィア オブ ゴッド〟には望めない大人っぽいムードを醸しだしてくれます。
単なる話題づくりではなく、サルトリア(仕立て屋)とストリートがお互いの長所を活かし合い、同時に足りなかった部分を補い合うという、コラボレートの王道をいくスーツだったのです。このプロジェクトを企画した〝エルメネジルド ゼニア〟のアーティスティック ディレクター、アレッサンドロ・サルトリの慧眼には感服させられますね。
仕事で膨大な量のスーツに囲まれて、少々食傷気味の僕ですら、「こんなスーツなら着てみたい!」と心から思えた1着。洋服好きにとってはたまらないコラボレーションではないでしょうか?