JBpress autographの編集陣がそれぞれの得意分野でお薦めを紹介する連載「RECOMMENDED」。第3回はローマを拠点とするイタリアブランド、ブリオーニのジャケット「レッジェーラ」を紹介します。

文=スタイリング=櫻井賢之 撮影=唐澤光也 文=山下英介 (初出:2020年10月9日)

今までにないカジュアルでリラックスしたムードの〝ブリオーニ〟。これならTシャツの上にだって合わせられる!

ちょっぴり高尚、ローマンスタイル

 都市国家として成り立ったイタリアは、今もなお土地ごとに独自の文化を色濃く残している。書き出すときりがないが、ピザはやっぱりナポリが一番美味しいし、パレルモの下町はなんだかアラブみたいだし、ミラノやブレーシャのおじさんたちは南の人ほど陽気というわけではない。日本人のイメージの中ではジローラモもカルボナーラも一緒くたという感じだが、イタリアといってもひとくちには語れないのだ。

 というわけで、今回紹介する〝ブリオーニ〟はローマを拠点とするイタリアブランド。ローマといえばイタリアの首都であり、政治・経済・宗教における中心地。となるとこの街を歩く男たちのファッションは、見事にコンサバティブなのである! イタリアには豊かなサルトリア(テーラー)文化があるが、フィレンツェやナポリのそれが華やかでファッショナブルなのに対して、ローマのサルトリアはけっこう地味。ぶっちゃけあまり絵にならないので、ファッション誌の取材が入ることはごく稀なのである……。

 だからエリートビジネスマンや政治家を主な顧客に持つ〝ブリオーニ〟も、そういった「ファッション誌」目線でいうと、ちょっと過小評価されがちな面がある。

 イタリアのサルト(仕立て職人)といえばほぼ全ての工程を手縫いで仕上げる超絶技巧で知られているが、ナポリのサルトがあからさまに手縫い感をアピールするのに対して、〝ブリオーニ〟の職人は恐ろしく美しく、そして端正に縫い上げる。洋服を知らない人や、ナポリ的ハンドクラフト原理主義者たちが見ると、きれいすぎてミシン縫いみたいに見えちゃうから、いたって中庸なシルエットやシックな色味も相まって、ぱっと見でそのすごさに気付かれないのだ。

 元ヤクルトの内野手宮本慎也の守備が、あまりにうますぎてファインプレーに見えないのと同じ原理である。しかし、かくいう僕も今まで〝ブリオーニ〟のジャケットに袖を通したことはない。だってあくまでこちらがつくるのは、世界を舞台に働くエグゼクティブのための服。その日暮らしのフリーエディターにとっては、ちょっとお堅いんだよね……。