JBpress autographの編集陣がそれぞれの得意分野でお薦めを紹介する連載「RECOMMENDED」。第5回はスタイリストの櫻井賢之さんがエルメスを紹介します。

スタイリスト/櫻井賢之 撮影=唐澤光也(RED POINT)(初出:2020年11月6日)

バンドカラーシャツと共生地のスカーフを合体させたような、〝エルメス〟のシャツ。着丈はやや短めで、タックイン、アウトどちらにも対応する

ノンシャランな魅力漂う1枚

 普段はカットソーばかりであまりシャツを着ない私ですが、〝エルメス〟のシャツだけは別。中でも襟のニュアンスを独特にしたカジュアルシャツが好きで、何枚も持っています。2020年の秋に発表された写真のシャツも、そういった〝エルメス〟らしさに溢れたデザインが気に入っています。

 スタンドカラーシャツに共生地のスカーフを合体させたようなそのデザインは、少なくとも今までメンズでは見たことがありません。イメージソースになったのは、ネクタイのルーツになったと言われる、17世紀のクロアチア兵たちが巻いていた「クラバット」? それか19世紀の英国で活躍した〝ダンディズムの祖〟ボー・ブランメルが巻いていた「ネッククロス」あたりでしょうか? 

 しかしこちらが表現するのは、決してそういった堅苦しくストイックなムードではありません。体をふわっと包み込むようなゆったりめのシルエットや、ラフに着こなしやすいストレートカットの裾などと相まって、どこか軽やかでノンシャランな雰囲気を漂わせるのです。

台襟にスカーフを縫い付けたようなデザイン。写真のように1回結ぶのが美しいが、結ばずに軽くひっかけるようにしてもよい

カジュアルな装いに美意識を!

 もちろん、その佇まいは単なるカジュアルシャツとは段違い。驚くほど美しいドレープ感を演出するコットンポプリン生地や、袖口に配された「クルー・ド・セル」刻印のメタルボタンなど、〝エルメス〟ならではのクラス感が随所に充満しています。 

エレガントな「クルー・ド・セル」刻印のメタルボタンが、〝エルメス〟のシャツたる証

 ドレッシーに決めるよりは、カジュアルに崩す方向に流れている昨今のファッションですが、それでも大人だったらきれいに装いたいときはあるでしょう。そんなときに、軽く一回巻くだけで洒落た着こなしに導いてくれるこのシャツは、とても重宝するのです。私はすでに色違いで2枚購入していますが、黒のワイドパンツに合わせたり、上にコートをはおったりと大活躍しています。スカーフを巻くほどではない、という場面で、これほど使えるシャツはないでしょう。

@Filippo Fior
2020〜21年の秋冬コレクションより。タックアウトしてコートやブルゾンに合わせても、タックインしてフランネルのスーツに合わせても着こなせる、汎用性の高さも魅力だ