建築史に燦然と名を残すストリート
さてここで、この《代官山T-SITE》が面する旧山手通りを見て欲しい。旧山手通りは《ヒルサイドテラス》を始め、由緒正しき建築が立ち並ぶ、建築史に燦然と名を残す有名ストリートである。ある意味「代官山」というイメージを確立したのは、このストリートのおかげと言っても過言では無い。
この旧山手通り、特に《ヒルサイドテラス》界隈を見渡してみると、あちらこちらの商店街にお決まりの「看板」「広告」の類が見当たらない。そう、代官山のブランド力はまさに、この「看板」「広告」が作り出す乱雑さや猥雑さが無いということによるところが大きい。
しかし、この縛り(恐らく法的規制の無い、いわゆる暗黙の了解)は、このストリート沿いに出店したい側としては、なんとももどかしいところであろう。看板を出してお店のアピールはしたい。だけども、それはこの街には似つかわしくないし・・・。
そんなジレンマに対してKDaは、《代官山T-SITE》で、いとも鮮やかな解答を提示した。それがまさしく大きい「T」と小さい「T」による『Tのギャスケット』。なんともスマートに、そして大々的にツタヤをアピール。おみごとである。
おそらくKDaは「暗黙の了解」を「制約」などとは思わず、むしろデザインの「ヒント」「手がかり」としたのだと思う。それは、ムスリム女子たちが戒律という制約を超えて「ヒジャブ・コスプレ」という「クリエイティビティ」な装いを生み出したことに通ずる。KDaのユーモアとウィットによる「クリエイティビティ」が『Tのギャスケット』という装いを生み出したのだ。
「ヒジャブ・コスプレ」の広めることに貢献した前述の女性はインタビューでこう答えている。
「コスプレは宗教関係なく誰でも楽しめるものだと思います。何らかの理由で表現を制約されているとしても、みんなの想像力は無制約だということを知ってほしいと思います」
これは建築家としてだけでなく、ひとりの人間として胸に迫る言葉である。
よし、それでは私も一念発起、彼女に刺激を受け「コスプレ」にチャレンジ!?・・・と、思ってはみたものの、私の好きな『エヴァンゲリオン』では、さすがにハードルが高過ぎ即断念・・・。やはり本業の建築で「クリエイティビティ」が発揮できるよう精進します・・・。