迷う心を振り切るように背中を押してくれた存在

 2019年発表のお酒は高評価であったとはいえ、全てのお酒を「七号酵母」へ変えるにはまだまだ、困難が続きました。がしかし、この酒蔵で見つかり、この酒蔵のアイデンティティである「七号酵母」をしっかり見つめ、この酵母の魅力を他にはない形で表現していくことが、新たな時代に真澄が突き進むべき道なのだと、原点回帰と革新を併せ持つリブランディングに、力強く進めたのは周りの助けがあったからこそだと言います。

 一つは、秋田の酒蔵「新政」の存在です。「六号酵母」系のみを使用するという方針に切り替え、見事なお酒を造り続けている彼らの存在は大きな励みとなっていると語ります。

 また、基本的に全てのお酒に七号酵母を用いて製造している奈良の「風の森」というお酒を飲んだ時の美味しさが、七号酵母の可能性を発見したきっかけだったといいます。

 他にもたくさんの人から励まされたり、アイデアや、ヒントをもらったりしてここまで来られたと、宮坂勝彦さんは語ります。

 彼の経歴にある、ファッションのマーケティングやブランディングに関わったことも、自社の哲学を徹底的に見つめ直しブラッシュアップしてより良いものにすることができたのかもしれません。

富士見蔵(工場)とその周りの風景、ここの他に諏訪にも蔵(工場)がある

未来につなげる諏訪の真澄というお酒

 2016年頃から少しずつ取り組んできた、原点回帰と革新のリブランディングは、結果的に大きな可能性が見えてきたと語ります。

 まず「七号酵母」のみを使用した酒造りへと、あえて酒造りの選択肢を狭めたことで、酒質の幅が広がったと言います。逆説的にも見えますが、より製法や原料に磨きをかけることによって真澄の世界観に彩りを加えたことに繋がったそうです。

 実際、全国新種鑑評会で金賞を受賞した純米大吟醸も「七号酵母」を使用していますが、過去金賞を受賞した華やかな吟醸香の高いお酒とは異なる魅力を放ち、そこが評価されての受賞だったと言えます。

 日本酒のマーケットの変化と彼らの挑戦が、ピタリと時代と符号し、多様性を認める新たな時代を切り開くフラグとなった、もしかしたマーケット自体のターニングポイントと言えるかもしれません。

 迷いながらも自らを信じ、試行錯誤を繰り返した彼らにとって、この受賞は大きな励みとなり、新たな挑戦への大きな力となったそうです。

 そう嬉しそうに語る宮坂勝彦さんには、まだまだやりたいことがたくさんあるのだそうです。

富士見蔵(工場)での酒造りの様子