文=熊谷朋哉(SLOGAN) 写真=下家康弘
鈴木慶一はカッコいい。誰が見ても明らかだ。デビュー45周年を迎えるムーンライダーズのリーダーにして、膨大なCM音楽を作り、北野武映画をはじめとする映画音楽作曲家。日本を代表するポップ・マエストロの新作『MOTHER MUSIC REVISITED』は、1989年に世界的大ヒットを記録したゲーム『MOTHER』の自作サウンドトラックを改めて再演したアルバム。鈴木自身にとっても「エポック・メイキングだった」と語るほどの名作はどのような形で蘇ったのか。「死ぬまでにやっておくリストに入っていた」という新たな名盤を軸に、“カッコいい”についての話を訊いた。音楽活動51周年、2021年はムーンライダーズ活動開始の年になるという。華やかな話題に包まれたマエストロは、変わらず洒脱に、まったく力むことなく鈴木慶一流のカッコよさを語ってくれた。
鈴木慶一の“カッコいい” ──「夢」など持たない
──まずは率直な質問です。鈴木さんにとって、「カッコいい」とはなんでしょう?
そうだな……「夢」を持たないことは、カッコいいと思うね。
──「夢」を持たない?
そう。「将来の夢」とか、若い頃から考えたことないもんな。こういう70代になりたいとかさ、そういうの全くない。そもそも、私には夢も希望もない(笑)。
──そりゃまた身も蓋もない。
明日は暗いしさ。未来は吊り天井(笑)。
──なんか、元気出ないんですけど。
(笑)いや、つまり、力んだ信念みたいなものを持たないことにするというかさ。今後何が起こるかは、誰にもわからないわけだから。
『トゥモローワールド』という映画で(2006/英米合作)、子どもがもう生まれなくなってしまったロンドンで、老ヒッピーの役のマイケル・ケインが言うんだ。「信念は偶然に敗北する」って。とてもいいなと思った。偶然に起きるいろいろなことを、その都度その都度受け入れていたほうがカッコいいじゃない? 僕はこうならねばならないとか、こうありたいとか、そういうのは、持たない。
──敢えて、持たない。
だって、そうすればさ、信念が達成できなかったときのダメージも小さいじゃない(笑)。
「いい加減」と「まじめ」の間
──でも、鈴木さんは、音楽生活50周年を超えて、人も羨むようなキャリアを作り上げているじゃないですか。順風満帆ですよね。
ラッキーだったの。本当に、それだけだよね。
──えー、そんな。
本当ですよ。そりゃ若いときには、ずっと音楽を続けていきたいという気持ちだけはありました。それは今もあるし、実際に音楽をずっと続けてこられている。最初にアルバムをリリースしたときの喜びやワクワクした気持ち、それはなくなっていません。それはもちろん大事で、だからこそ、今も音楽を作っているわけですよね。
──それは「夢」をかなえたということですよ。
でもなあ、そもそも、プロの音楽家になったかどうかも曖昧だったんだよなあ(笑)。これからどうすればいいかわからないような高校3年の冬にあがた森魚と出会って、それまで一種の引きこもりだった僕を外に出してもらった。その後音楽に関わる友達が増えて、彼らと一緒にその後も音楽を続けている。確かに、「夢」が現実になったといえるのかな。いや、音楽をやるということが夢だったわけじゃない。確率の低い願望だった。その後は毎日が現実だからねえ。現実を積み重ねて今日に至るということなんだ。要するにですね、あんまり真剣に生きていないのです(笑)。
──しかし、今回の『MOTHER MUSIC REVISITED』を聴いても、ものすごく力が入っているじゃないですか。鈴木さんの音楽がいい加減なものとは思えないですね。
音楽については、もちろん一所懸命ではあるよね。それはそう。まじめに音楽を作ってきてよかったとは思います。それは本当。
私は過去を振り返ることはほとんどなくて、これはハルメンズにいた上野耕路くんに教えてもらった方法なんだけれど、新しい音楽づくりが上手く進まないときに、自分の昔の作品を聴き直せと。聴き返してみると、そこそこ上手くやっているし、偶然にも恥ずかしいものは残していない。それはとてもラッキーなことで、今の自分が前に進む原動力になるよね。
──それはまじめって言うんじゃないですか?
ん……そうだね(笑)。でもなあ、真剣さとは程遠い感じがするんだよなあ。解消法だと思う。