MIYAVIが新たな時代を迎えている。

もともと、その多様な活動で各界に知られる存在である。

ギタリスト/ロックアーティストとしては、“サムライ・ギタリストの称号のもと、ワールドツアーを幾度も成功させ、米大リーグ・ドジャースの始球式でもパフォーマンスを行う、掛け値無しのワールドワイド・アーティストである。俳優としては、アンジェリーナ・ジョリー監督映画『Unbroken』をはじめとするハリウッド映画から日本映画まで数多くの作品に出演する。モデルとしてはパリコレに出演し、数多くのハイブランドとコラボレーションを行う。さらには、国連難民高等弁務官事務所の親善大使として世界中を廻り、ボランティアに汗をかく──さて、MIYAVIの「カッコいい」とはなんなのか?──3回にわたってインタビューを届ける。

文=熊谷朋哉(SLOGAN) 写真=下家康弘 ヘアメイク=千絵(HMC)

 筆者は、デヴィッド・ボウイのポートレートで知られる鋤田正義氏との写真集『MIYAVI x SUKITA』(2016)以来、スケールを拡げ続けながらも目まぐるしく動くMIYAVIの活動を近くで見続ける機会があった。

 その姿は文字通りに「身を張った」ものだ。ステージはもちろんのこと、どこにでも自ら危険を臆せず出掛けていき、対象のもとに飛び込み、なにかを掴み、そして新たな存在へと変化する。

 そんな自分の活動の多様さを、MIYAVI自身は「マーケティングが難しい存在」と自覚しながらも、その動きを全く止めることがない。

 2020年夏、新型コロナウイルスの流行によって、われわれは否応なしに大きな変化に直面している。それは、われわれに新たな行動様式を強いる。

 そんな中、MIYAVIは「#MIYAVIVirtual」をテーマに、新たな活動を矢継ぎ早に開始した。彼はこの時代をどのように思っているのだろうか。

アイデンティティのあり方が問われている

──新型コロナウイルスの流行で、世界的に大きな波が訪れています。ざっくばらんに、いまの状況をどのように感じていますか?

 様々な影響が出ていますよね。ここからまた第二波、第三波の影響が出てくると思います。いろんな業界の仕組みの変化やその中でのパワーバランスなど。現状で音楽活動だけ見ても、今年はライヴがいっぱい中止になったし、フェスもほとんど開催されていない。僕たちもみんなの前でライヴをやりたくてしかたないんだけど、こればっかりは状況を見ながら判断していくしかない。でも一方で、家族と共有する時間や自分と向き合う時間は増えたし、バーチャルライヴ含めて新しいタイプの表現も可能になった。物流含めいろんなものの流れが変わって、必然的にいろいろな変化が生まれている中で、僕個人としては、その世界の中でどう存在できるか、するべきか、そのことを一番に考えていますね。

──一番大きな変化はなんでしたか?

 もちろん僕自身、海外への旅の頻度が減って生活の仕方も音楽活動も大きく変わったけれど……なによりも、人と物への価値観が大きく変わってきていると思いますね。リアルとヴァーチャルの区別がなくなって、人としてのアイデンティティのあり方が問われるようになってきたというのかな。何を持ってリアルとするのか、というか。

 もしかすると、これは新型コロナの影響だけではないかもしれない。5G、香港、BlackLivesMatter……様々な状況の影響を受けて、アイデンティティというものについて、いま、僕たちはものすごく大きな変革期の中にいる気がします。

──それは「#MIYAVIVirtual」というコンセプトとも直結する?

 もちろん。ヴァーチャルの中で、MIYAVIはどれだけリアルになれるのか。テクノロジーを駆使しながら、その中でどう表現していくのか。僕たちアーティストも模索しなければいけない時代に来ていると思います。

「#MIYAVIVirtual」は新たなエキサイトメント

──ARとか、アバターの使われ方とか。

 そう。「人間らしさ」ってなんだったっけ?と。これはなかなか深くて、僕たち全ての人類に突きつけられた新たなテーマだと思っています。これから人と人はどう繋がっていくのか。そこを「#MIYAVIVirtual」では追求していきたい。ヴァーチャルでどれだけ熱いものを届けられるのか。2020年、ここでいきなりくるとは予想していなかったですが、価値ある挑戦だと思っています。

──「熱さ」は変わることがない?

 変わらないですね。どのような状況の変化があっても、人として存在している以上、変わる部分と変わらない部分があって、思いの「熱さ」みたいなものは絶対に変わらないもののひとつなんじゃないかな。それを今度はデジタル上でどう伝達できるようにするか。そこをもっと掘り下げて考えていきたいんですよね。

──「熱」をどうデリバリーするか、ということ?

 当面ヴァーチャルの中でね、これまでの伝達方法では足りない部分やうまく表現できない部分が出てきています。現段階だと、送り手の情報量を受け手側のデバイスでは受け取りきれない。もしくは受け取れるキャパシティがあってもそれを活かせる表現方法が確立していない。ここのチューニングの期間が少し続くと思います。たとえば、すごく人気のレストランがたくさんありますよね。で、当然デリバリーに力を入れ始める。そうすると、食べ物やそのおいしさの価値は変わらないけれど、立地や雰囲気といった、これまで付加価値的に大きな役割を果たしていた部分はどうしても伝わりづらくなる。コンテンツ力というか、コンテンツの存在意義が変わらざるを得ないんですね。だから僕らアーティストも、自分たちのコンテンツ力を分析する必要があると感じます。自分たちのどんな部分にコンテンツとしての価値があったのか?と。

飛び込むことに賭けている

──なるほど。いつも思うんだけど、自己認識が冷静ですよね。

 いや、こんな事言っておいて、あんまり見えてないと思う(笑)。だって、本当だったら、たとえば俳優活動もしないほうが、国連の親善大使もしないほうが、マーケティング的にはきっと楽だと思うんです。“サムライ・ギタリスト”MIYAVIとして、ギターだけを弾くようにしていたほうが、やっぱり受け手側からすると、わかりやすい。

──(笑)これまでの音楽業界の慣習としてはそうかもしれない。

 でも、MIYAVIとしては、これは個人として主観的な意思も含まれますが、どこかに飛び込んでなにかを得ること、そっちに賭けている。ていうか、単純にそっちの方がワクワクする。そして実際、それで得られているものも大きいと思うんです。俳優としての活動から映画『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』の音楽を担当することに繋がったり、音楽家としてのファッションスタイルから、ファッションモデルをやったり。また、そこから得ることで音楽の見せ方も拡がってくるし。結局、全部が繋がってるんですよね。

──国連の親善大使としての活動はどうですか?

 ライフワークですね。この活動によって、自分の価値観が変わることを何度も経験したし。本当に過酷な環境で暮らしている子ども達とサッカーをやって、アコギ弾いて歌をうたってね、僕だけの力じゃ何も変えられないけれど、まずそういった事実を知る事、それによって意識が変わって、よりたくさんの人に発信して、少しでも良い方向に変えていく。それが自分たちのミッションだと思っています。

UNHCR+MIYAVI アンジェリーナ・ジョリーとの交流を通じてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の活動に関心をもち、2017年11月に日本人として初めてUNHCR親善大使に任命された。2019年11月に2期目を任される。ロヒンギャ難民キャンプへは、2018年2月と2019年6月の2回訪問している

 

INFORMATION

9月4日(金)配信:EP「Holy Nights(Lockdown 2020)」リリース

「MIYAVI Acoustic at Billboard LIVE 2020」開催
東京公演:9月14日(月)15日(火)ビルボードライブ東京
大阪公演:9月19日(土)20日(日)ビルボードライブ大阪

詳細はビルボードライブオフィシャルサイトへ(http://www.billboard-live.com

 

PROFILE
エレクトリックギターをピックを使わずに全て指で弾くという独自の“スラップ奏法”でギタリストとして世界中から注目を集め、これまでに約30カ国 350公演以上のライブと共に、8度のワールドツアーを成功させている。2019年7月、ドジャースタジアムで行われた大リーグ始球式での国歌演奏で観客を魅了し、日本、アメリカにて話題騒然となった。アンジェリーナ・ジョリー監督映画「Unbroken」(2016年日本公開)では俳優としてハリウッドデビューも果たした他、国内では「BLEACH」「ギャングース」、国外では「キングコング:髑髏島の巨神」「マレフィセント2」(2019年10月18日、日米同時公開)への出演、モデルとして、Yohji Yamamoto、Y-3、最近では、Moncler Beyond ワールドワイドキャンペーンに抜擢されるなど、各方面でも注目を集めている。映画『Mission: Impossible - Rogue Nation』日本版テーマソングのアレンジ制作、HONDAコマーシャル楽曲、SMAPへの楽曲提供をはじめ様々なアーティスト作品へ参加するなど、国内外のアーティスト/クリエイターから高い評価を受けている。2017年には日本人として初めてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の大使に就任。2020年4月には最新アルバム「Holy Night」をリリース。また新プロジェクト「MIYAVI Virtual LIVE」をスタートさせ、コロナ禍の状況下においても止まることなく、「配信」という新たな形で表現の場を自ら広げている。2020年6月、GUCCIがグローバルに展開するコレクション「Gucci Off the Grid collection」の広告に起用される。GUCCIの広告に日本人の著名人が起用されるのは初の快挙。常に世界に向けて挑戦を続ける"サムライ・ギタリスト MIYAVI"。今後も彼の活動は止まる事はなく、最も期待のおける日本人アーティストの一人である。

https://www.ldh.co.jp/management/miyavi/