文=松原孝臣
2020年NHK杯、ついに登場
驚きと寂寥、期待、さまざまな反響を起こしてから1年あまりの月日が経ち、リンクの上で見せたのは、期待に応える、いやそれ以上の演技だった。
2020年11月に開催されたNHK杯のデビュー戦、そして12月の全日本選手権で、アイスダンスの村元哉中と髙橋大輔は、たしかな存在感を示した。
「よくここまで来たと思います」
全日本選手権を終えての髙橋は、周囲にとっても等しい感慨だっただろう。あらためて足取りを振り返りたい。
2019年にアイスダンスへ転向
髙橋が2019年全日本選手権をもってシングルからアイスダンスに転向することを発表したのは、同年の秋のことだった。直接のきっかけは村元からの働きかけだった。
「髙橋選手がアイスダンスに興味があるということを聞いていて、直接聞いてみようと思い、今年の1月に連絡をとりました」
村元は2018年の夏、平昌オリンピックに出場したクリス・リードとのカップルを解消していた。
当初、髙橋は「もっとうまい人と組んだほうが」とためらいがあったが、何度か話し合ったあと、村元も出演する公演『氷艶』の稽古合宿のため訪れていた新潟で、トライアウトを実施。髙橋いわく、「一緒に滑らせてもらったとき、もっとこの世界を知ってみたいという気持ちが強くなりました」ことから決意した。
決断の素地として、お互いへの印象があった。髙橋は村元をこう見ていた。
「すごく素敵な表現をする選手だなと思っていました。アイスダンスに転向してからは、表現という部分で開花したように感じます」
村元はこう語っている。
「本当に昔から憧れのスケーターなんです。特に大ちゃんの音楽の捉え方や動作には、誰にもない個性があって。滑り方、表現の仕方がすごく好きで、そういった部分も含めて、大ちゃんの世界をダンスで体験してみたいと思ったからこそ、一緒に滑りたいと思いました」
髙橋の決断は、先に記したように、大きな反響を呼んだ。
髙橋は、2010年のバンクーバオリンピックで日本男子初のメダルとなる銅メダルを獲得、同年の世界選手権でもやはり日本男子初の優勝を飾ったのをはじめ、数々の実績を築いてきたスケーターだ。
一度引退して復帰したが、選手としてはベテランの域に入る30歳をすでに超えていた。その時点での転向は、すなわち大きなチャレンジであった。
また、アイスダンスへの転向は、シングルでのキャリアに終止符を打つことを意味していた。反響を呼んだのは自然なことだった。