2018年平昌オリンピック、フィギュアスケート競技のアイスダンスで金メダルを獲得したテッサ・ヴァーチュー、スコット・モイア(カナダ)。写真=アフロ

 日本では知られていないフィギュアスケートの世界がある──そこまで言えば、おおげさかもしれない。

 だが、世界と日本とを比べると、思わずそう言いたくなる事実がある。

 アイスダンスの地位である。

 フィギュアスケートの人気が高い海外の国では、大会でアイスダンスにも熱心な視線が注がれる。会場ではシングル同様、声援を送るファンが数多く存在するし、テレビでも放送される。でも日本では、テレビ中継を観れば分かるように、アイスダンスはなきに等しい扱いを受けている。国際大会や全日本選手権が放送される際、流れるのは男女のシングルにとどまる。

 でも、もしかしたら、状況は変わるかもしれない出来事が起きた。長年、男子シングルを牽引してきた髙橋大輔が、村元哉中とともにアイスダンスに挑戦すると表明したことである。

 これを機会とし、3回にわたり、アイスダンスに焦点をあててみたい。

 

「アイスダンス」は「ペア」とどう違うのか?

 そもそも、アイスダンスとは何か?

 まずフィギュアスケート競技には、男女それぞれのシングルと、ペアとアイスダンスがある。

 いちばんの特徴は、男女ひと組によって競われる種目であることだ。「氷上の社交ダンス」と呼ばれることもあり、音楽に合わせてステップやリフトなどを行い、順位を競う。

 フィギュアスケート競技の中でも歴史は新しく、1952年の第43回世界選手権で正式種目となり、冬季オリンピックでは1976年、インスブルックオリンピックより正式種目となった。

 アイスダンス同様に男女ひと組で行う種目として「ペア」もある。ぱっと見た目には区別しにくいが、大きな違いは、ジャンプがあるかどうかにある。正確を期せば、アイスダンスも1回転半までは認められているが、ペアのように、男女がそろって3回転ジャンプをしたり、あるいは男性が女性を投げて女性がジャンプをする、といった技はアイスダンスでは禁止されている。

 また、主に男性スケーターが女性を持ち上げる「リフト」でも、アイスダンスとペアには違いがある。ペアは頭上に高く掲げることができるが、アイスダンスの場合、男性が自分の肩より上に女性を手で持ち上げて支えることは禁止されている。相対的には、ペアの方がダイナミックに技を競う種目と言える。

 見た目に派手なリフトがなく、ジャンプがあるわけでもない――だからこそ生まれる魅力がアイスダンスにはある。その分、質の高いステップやスピンが求められるからだ。

 何よりも、表現という部分こそ、アイスダンスが人々を惹きつける要因だ。

 ダンスは、音楽が流れ、そのリズムに乗って動作があれば、それだけでダンスとして成り立つ。そこにスケートという要素があって、陸上にはないスピード感が加わる。

 その中で、滑っている2人が曲を共有して1つの世界を築いていく。それを観る人々も巻き込まれ、その世界を楽しむ。

 そこにアイスダンスの魅力があるし、スケートの技術がどうとか知識があまりなくても、楽しむことができるという点も魅力としてあげられるだろう。実際、華やかな衣装、優美な 演技に魅了され、アイスダンスがいちばん好きだというファンの方もいる。

 

競技は「リズムダンス」と「フリーダンス」

 では、競技としてどのように行われるのだろうか。

 シングルがショートプログラム、フリーの2つから成り立っているように、アイスダンスも2つのプログラムで競われる。リズムダンス(以前はショートダンスという名前だった)とフリーダンスだ。

 リズムダンスは、シーズンごとに「テンポとリズム」が指定され、それに即して曲を選んで使用する。

 例えば、平昌オリンピックが行われた2017-2018シーズンは、ラテンアメリカのリズムと決められ、チャチャ、ルンバ、サンバ、マンボ、メレンゲ、サルサ、バチャータなどから選ぶ必要があった。

 一方、個性や表現がより豊かに体現されるのがフリーダンスだ。曲を自由に選ぶことができるので、そこにストーリーを込めたり、曲そのもののテイストを解釈して伝えようとしたり、カップルそれぞれに、自分たちの世界を表そうとする。

 リズムダンス、フリーダンスともに、ステップやリフトなどやるべき要素が決められているが、採点基準は、はじめは分かりにくいかもしれない。シングルなら、例えばジャンプが回転数や種類に応じて基礎となる点数が定められていて、ジャンプのできばえで加点されたり減点されるように、選手それぞれの出来であったりどういうレベルの演技なのかを把握しやすい。

 アイスダンスは、ステップをはじめ高度な技術が選手には求められるとはいえ、どうしても表現的な側面が強いから、採点の部分では見分けづらいところがある。

 でも、細かなところが分からなくても、先に記したように楽しめるのがアイスダンスだ。ルールなどを把握していなくてもその世界を楽しむところからスタートし、少しつずつ覚えていけば問題はないと言えるだろう。

 アイスダンスには息の長いカップルも珍しくない。2010年バンクーバー、2018年平昌の両オリンピックで金メダルを獲得したテッサ・ヴァーチュー、スコット・モイア(カナダ)。2009年からグランプリファイナル5連覇を果たし2014年のソチオリンピックで金メダルのメリル・デイヴィス、チャーリー・ホワイト(アメリカ)ら、名声と高い人気を誇るカップルがいる。

 そうした世界に挑んできた日本勢がいる。次回は、高い壁を崩そうと奮闘してきた日本の選手たちと、日本の課題を取り上げたい。