全日本選手権のアクシデントも乗り越えて

 このような経緯で誕生した両者は、3組が出場したNHK杯で3位、5組が出場した全日本選手権では2位の成績を残した。

 NHK杯のフリーダンス後半、ツイズルで髙橋がバランスを崩して両手をつく場面があったのをはじめ、2大会を通じて細かなミスはあった。

 また全日本選手権のときはリズムダンス当日午前の公式練習で2人の足が引っかかって転倒、村元が左膝を痛めるアクシデントがあった。

 そうしたあれこれがありつつ、でも最も強く抱いたのは、髙橋の全日本選手権での言葉通り、「よくここまで来た」、いや「こんなにも出来上がったのか」だった。

2020年12月27日、全日本フィギュアスケート選手権。フリーダンスは「La Bayadere(ラ・バヤデール)」。写真=長田洋平/アフロスポーツ

 シングルとアイスダンスは別物、としばしば言われる。1人で滑るのと異なり、2人が息をそろえて滑る動作、呼吸を身に着けるには、少なくとも5年以上かかる、とも聞く。文法が違う、と表してよいかもしれない。

 髙橋と村元が本格的に練習をスタートしたのは2020年になってから。約10カ月程度でNHK杯に臨んだ。しかも新型コロナウイルスの影響で、その期間でさえ、コーチの目の届くところで存分に練習できたわけではない。

 それらを考えれば、ここまでの演技ができたことは、驚きにほかならない。カップルとしてスタートする前から互いをリスペクトしていたように、相性のよさはあるだろう。大会では、互いを気遣う場面も数多く見られた。

 全日本選手権公式練習時のアクシデントの際は、転倒した際、心配かけないように、と村元は「大丈夫だよ」と言葉をかけ、いざ試合では髙橋が「頑張ろう」と声をかけた。

「今日は全力で大ちゃんを頼りました」と村元は笑顔を見せ、髙橋は「(村元は)かっけーなと思いました」とやはり笑顔を見せた。

 また、村元はオリンピックに出場するなどアイスダンスでキャリアを積んだ選手であり、髙橋にはステップワークなど培った技術がある。数々の舞台で経験も積み重ねている。それも見逃せない点だ。

 同時に、髙橋の姿勢をあらためて思う。

 立ち止まらず、挑む姿勢だ。競技生活に別れを告げ、アイスショーなどでプロとして活躍していく道もあった。それだけのキャリアは築いている。でも、競技者として歩んでいこうと決め、そのための道を模索し、アイスダンスに身を投じた。一から謙虚に学び、取り組んでいる。

 それはまた、新たな道を自ら切り拓く行動にほかならない――これまでと同じように。むろん、当の本人に満足はない。髙橋は言う。

「全日本という大きな舞台を滑った経験は次に生きると思うので、この悔しさを次に生かすしかないです」

「課題は、ほぼ全部。1個ずつ、着実に、レベルアップできるようになっていくしかないと思います」

 期待以上の高い位置からスタートを切った髙橋と村元は、どのような未来を築いていくのか。どんな道を作っていくのか。

 再びリンクに戻ってきた、髙橋の凛とした横顔。村元の強さを秘めた目。2人の姿に、そんな思いがよぎった。