コロナ禍を経てテレワークが急速な広まりをみせたことで、「入社以来、ほとんどオフィスに出社していない」という新入社員も珍しくない。転職や異動によって新たな環境に身を置くことになったビジネスパーソンにも同様のことがいえるのではないだろうか。そうした中で課題となっているのが、チーム内のコミュニケーションだ。
Web会議やチャットなど、オンライン上でのコミュニケーションを前提としてチーム作りを進める上では、オフィスで行う対面のコミュニケーションとは異なる配慮が必要になる。適切なチームマネジメントを行い、チームを十分に機能させるためにはどのような視点が求められるのだろうか。今回、『《働きやすさ》を考える メディアが自ら実践する「未来のチーム」の作り方』(扶桑社)の著者であり、サイボウズ式編集長を務める藤村能光氏に話を聞いた。
チームで成果を出すために「一旦理想を下げてみる」
―― テレワークが広まってからというもの、多くの企業がコミュニケーションに関する課題を抱えています。チームの機能不全を防ぐために、どのような心構えが必要になってくるのでしょうか。
藤村 能光 氏(以下、藤村氏) まず、今までのようにすぐに成果が出ることは、一旦諦めることが必要だと思います。これまでの働き方は、皆がオフィスに出社して、顔と顔を合わせて、膝を突き合わせてコミュニケーションをする、ということを前提にしていました。しかし、在宅勤務が中心になると、働き方がこれまでと180度変わってしまいます。つまり、今までに誰もが体験したことのない働き方をしながら、自分だけでなく、メンバー全員で試行錯誤しながら新しい働き方を模索することになるんです。そうした中でこれまで通りの成果を出すということは、かなり難しいと思うんですよね。
そこで一旦理想を下げてみる。理想を高くしすぎたり、成果を求めすぎたりせず、ゼロベースで自分たちの働き方を考え直しながら、少しずつ成果に紐づけていく考え方が大切なのではないでしょうか。
―― 前提を変えて考えてみる、ということでしょうか。
藤村氏 そうですね。社長の青野も、2020年4月の緊急事態宣言が出た段階で社内のグループウェアで社員全員にメッセージを出していました。「これまでと同じ働き方ができないのだから、普段どおりのパフォーマンスが出なくて当たり前」「時には諦めも必要」、という趣旨のメッセージです。私はそれで救われましたし、他の社員にもポジティブな影響があったはずです。
「うまくいかなくて当たり前」ということを受け入れたうえで、新しくチャレンジをしていく。初めはそういった考え方をチームに浸透させていくことが大切だと思います。僕自身もメンバーをマネジメントする立場なので、トップメッセージがあったことで自信を持ってサイボウズ式編集チームのみんなに「今は成果が落ちても仕方ないし、むしろ出なくても当たり前」と伝えることができました。
―― トップのメッセージが皆さんの考え方を大きく変えたわけですね。
藤村氏 「変化に対応しよう」と口で言うことは簡単ですが、やはり体験したことがない変化を遂げる中ではしんどいタイミングもあります。そこでトップから安心させられるメッセージを出してもらえることで、現場のメンバーも勇気づけられるはずです。
―― 働き方が大きく変わる中で、日々のコミュニケーションに変化はありましたか。
藤村氏 コロナ禍で始めた新たなコミュニケーションの取り組みには「朝会」があります。平日の10時5分から10時30分までの25分間、チームメンバー7名で集まり、文字通り朝みんなで集まって話しています。具体的には「昨日の仕事でやったこと」「今日これからの仕事でやること」、そして「今、その仕事を進めるうえで不安に思っていること」という3つのテーマについて共有します。Zoom経由にはなってしまいますが、この朝会でみんなの顔合わせの時間をとっていることになりますね。
コミュニケーションの中心がオンラインに移ると、実際にメンバーの顔を見て「今日、調子どう?」「ちょっと体調悪そうやん」といった声がけができなくなってしまいます。そうした中ではそれぞれが抱える不安、昨日と今日との違いといったことを察知するのは難しいものです。だからこそ、少しのことでもいいので不安に思っていることがあればこの時間に解決しよう、という場を毎日設けています。