文=今尾直樹

昨年、誕生50周年を迎え、かずかずのイベントが開かれた「ミニミニ大作戦」。主人公はイギリスのポップ・カルチャーのアイコン、ミニだ。開発を担当したアレック・イシゴニスはその功績により、サーの称号を得た。それにしても、この映画、イギリス人が泥棒を働くお話なのに、どうして原題は「The Italian Job」なのか? ぜひご自分でお確かめください

Photo:PPS

3台のミニでイタリアの古都トリノを走り回る

 自動車が出てくる映画、といえば必ず名前があがる「ミニミニ大作戦」。ご存じ、マイケル・ケイン率いる泥棒一味が400万ドルの金塊を強奪、逃走用に用意した3台のミニで、イタリアの古都トリノを縦横無尽に走り回る、1969年、イギリス製作の犯罪コメディの傑作である。

 主役ともいえるミニは、BMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)がスエズ動乱によるガソリンの欠乏をきっかけに開発した全長わずか3メートルの小型車で、当時、これほど小さくて、大人4人と荷物を載せられる一人前の自動車は存在しなかった。設計を任されたアレック・イシゴニスは、ほんの数人のエンジニアからなるチームを結成し、長年温めていたアイディアと天才的ひらめきでもって、この革命的前輪駆動車のプロトタイプをわずか数カ月でつくりあげた。

 1959年の夏に発売となったミニは、全長の80%を乗員と荷物のために使うという奇跡を起こしただけではなくて、驚異的なハンドリングも持っていた。レースやラリーでの数々の勝利がそれを証明してもいる。

 余談ながら、私がミニの魅力を知ったのは、誕生からはるかのち、1989年の夏のことだった。イギリスのシルバーストン・サーキットで開かれたミニの誕生30周年イベントに取材に行き、ヨーロッパ大陸から自走でやってきたミニ愛好家たちの笑顔とエンスージアズム(情熱)にふれた。見ているだけで、自分も楽しくなってきたのだった。

 プレス向けの晩餐会には、F1のコンストラクターで、ミニのチューナーとして知られるジョン・クーパーや、そのクーパーさんの名を冠したクーパーSを駆って1964年のモンテカルロ・ラリーを制したドライバー、パディ・ホップカークも参加していた。彼らのスピーチは、私にはさっぱりわからなかったけれど、ジョークの連発で会場内は爆笑につぐ爆笑に包まれた。ハレの場だというのに、クーパーさんの白いシャツは洗いざらしで、エリが毛羽立っていた。それがイギリス流のオシャレだということを私は知らなかった。

 イベントの最後は集まってきたミニたちによるパレード・ランだった。シルバーストン・サーキットを1周して、それぞれ帰途につくのだ。そのうちコース上が渋滞してきて、ボンネットから湯気を出してコースの外の芝生で止まるミニが続出した。私はそういう光景を帰りのバスのなかから眺めながら、のどかでいいなぁ、と思った。「まことにミニほど愛されているイギリス車はないのです」というイベントのキャッチコピーが印象的で、帰国後、私はこのイベントで発表されたミニの30周年記念モデルを買ったのでした。たのしいクルマだったなぁ。

 

ミニスカートの「ミニ」は、クルマのミニ

 ミニが登場したちょうどその頃、マリー・クヮントがミニスカートでファッション界に大ブームをつくり出す。ミニスカートの「ミニ」は、クヮントが大好きなクルマのミニからとったネーミングだった。ジョン・レノンが自分たちのバンド「クオリー・メン」を「ビートルズ」に改名し、レコード・デビューしたのは1962年。「ミニミニ大作戦」の音楽はクインシー・ジョーンズだけれど、前述したように1969年製作のこの映画は、スインギング・ロンドンの雰囲気を伝えているのだろう。

 その一方で、「ミニミニ大作戦」がちっとも古びていないどころか、これこそコロナ禍のいまこそ観るべき映画だ! と筆者は申し上げたい。というのも、最後に流れる、マイケル・ケインも歌っている大合唱がこんな歌詞だからだ。

♪This is the self-preservation society(これぞ自己保存の社会)
ちゃんちゃん、ちゃちゃ、ちゃん、ちゃちゃちゃちゃ、ブリッジャー!!

 思わず一緒に歌いたくなっちゃいます。

 クルマ好きだったら冒頭から引き込まれるのは、オレンジ色のランボルギーニ・ミウラがイタリアン・アルプスのワインディング・ロードを気持ちよさそうに走っているからだ。運転しているのは中年のイタリア男。タバコをくゆらせながら、ひとりで青空の下、白い雪が残るアルプスの絶景を快調に飛ばしている。バックにソフト&メロウな男性バラードが流れてくる。いいなぁ。これから女の子を迎えに行くのかなぁ。それとも、その帰りかなぁ。

 と観ていると、真っ暗なトンネルに突入して、ドカン! 黒い煙が出てきて……。ああ、もったいない。