写真・文=橋口麻紀
フェーズ3のイタリア
太陽と緑が眩しい、最高の季節を迎えているイタリアです。ロックダウンが解除され、少しずつですが街も人も日常の生活を取り戻しています。イタリア人の生活には皆無であった「マスク」も、今では生活の一部となり様々なマスクスタイルが行き交う、この新たなイタリアの街角の景色にもようやく慣れてきました。
明るい日差しとともに、訪れたフェーズ3。電車での遠距離移動が可能になったり、EU圏からの来訪者を空路で迎えることができたり、と。少しずつですが元気なイタリアが戻ってきたことは、とても嬉しいことです。
太陽に誘われ制限なくお散歩ができ、ベンチでジェラートを食し、アペリティーボ(食事の前に軽食をつまみながらお酒を飲むこと)で一日を締めくくり、誰もが喜びを感じていることでしょう。私たちも日常に感謝しつつ、ここエミリア=ロマーニャ州のモデナで毎日を過ごしています。
パッショーネ(パッション)のレベルをあげるために選んだこと
フェーズ3になったとはいえ、まだまだリモートワークのミオ・マリート(私のダンナさま)。数か月間続いたロックダウン生活のピリオドへの感謝と、さらに続くリモートワークへのパワーチャージをするために、ミオ・マリートが考えたIl mio tempo(自分の時間=イル・ミオ・テンポ)は、プチヴァカンス! ミネストローネ(いろいろとアタマに詰め込んだまま、一日がくるくるとまわってしまうよう)にならないためにも、必要だと。
ミオ・マリートがプチヴァカンス先に選んだのは、モデナの郊外に位置する、貴族の館をリノベーションしたホテルです。緑と季節の花々が五感に響く庭園が素晴らしい。世界一のシェフとして名高い、Massimo Bottura(マッシモ・ボットゥーラ)夫妻が手がける小さなホテル”CASA MARIA LUIGIA”(カーサ・マリア・ルイージア)です。
なぜ、ここをリスタートするためのイル・ミオ・テンポとして選んだのかと尋ねると、自分たちが居を構えるモデナへの想いと、「パッショーネのレベルを上げるため」との返答があり、思わず聞き直してしまいました。
すると、世界で活躍をしているモデネーゼ(モデナに住むイタリア人)のマッシモ・ボットゥ―ラが手がける場所であれば、必ずや、何かしらの刺激を受け、リスタートをする原動力になるはずだ、と熱弁を振るったミオ・マリートだったのです。リラックス目的のイル・ミオ・テンポと思いきや、そんな秘めた考えがあったとは、驚いてしまいました。やはり、ミオ・マリートはイタリア人のパッショーネをもっていたのだと、改めて感じ入った瞬間でした。
ということで、秘めたパッショーネとともに、しばしの充電をしたミオ・マリートの思いを、世界のレストランで1位を獲得した「オステリア・フランチェスカ―ナ」のシェフ、マッシモ・ボットゥーラが創った究極のホテルの景色とともにお届けする、『フツーに真面目なイタリア男の物語』第4回です。
ここからは、少しホテルのお話を
全12室の田園ホテル「カーサ・マリア・ルイージア」。名前の由来は、マッシモ・ボットゥ―ラのマンマの名前、ルイージアから取ったようです。ここでもイタリア人のマンマへの愛情が! イタリア人は本当にマンマ好きなのです。
マッシモ・ボットゥ―ラは、自家菜園の収穫物で作る料理でゲストをもてなしたい、と以前から思い描いていたそうです。19世紀に建てられたこちらのヴィッラを購入し、昨年オープンしました。彼が個人的に保有しているインテリア、アートコレクションで埋め尽くされた空間と、ホスピタリティと彼らの思いがあいまって、世界から訪れるゲストを癒しの空間へと誘ってくれるのです。
サロンはファニチャー、アート作品ともにヴィンテージで統一をされています。ホテルというよりも、とある別荘に訪れているかのような、なんとも温かい気持ちになったのが第一印象です。
圧巻のヴィンテージレコード・コレクション! なんと蓄音機もあり、ゲストは自由に聴くことができるのです。
マッシモ・ボットゥ―ラのフィロソフィーが細部にいるまで行き届いています。ミオ・マリートいわく料理を創ることはライフスタイルをクリエイトしているようなものだ、と。あらためて、このホテルを訪れたことに得心しているようでした。
美しいガーデンを見ながらのアペリティーボ。ミオ・マリートは、アペリティーボタイムをオン・オフのスイッチとしてとても大切にしています。ここでのアペリティーボはまた格別です。モデナはランブルスコ(発砲赤ワイン)の産地。で、ランブルスコと自家菜園で収穫したズッキーニをいただきました。目にするものすべてにおいて、モデナへのパッショーネを感じたところでミオ・マリートは、「パッショーネのレベルを上げるため」について語りはじめました。
人生において様々な意味をもつパッショーネ
世界に知られたマッシモ・ボットゥ―ラでさえも、この数か月間さまざまな思いがあって、このリオープンにこぎつけたのだろう。「パッショーネ」がなければ、ここまでの自分の思いをカタチにすることはできなかったはずだ。それをここ数か月間キープし、この空間をわれわれゲストへ提供してくれたことに感謝したい。このホテルをモデナにオープンしたことに、彼の郷土にたいする熱い思いも感じられる。そして、イル・ミオ・テンポにこのホテルを選び、訪れたことで自分なりの解答を見つけられたといいます。
今まで経験をしたことがない数か月のロックダウンという生活。それぞれが自分の人生と向き合い、これからの人生を少なからずとも考えたことでしょう。様々な思いで迎えた新たなスタートで、私はイタリア人のミオ・マリートから、いつもとはまた違う「パッショーネ」を感じました。
ミオ・マリートだけではなく、多くのイタリア人は「パッショーネ」ということばを発します。日本語に直訳すると「情熱」ですが、どうもイタリア人にとっては情熱というワードでは語りつくせない、人生においての様々な意味が込められているのです。それは、小さな時からの秘めた強い思いだったりするのでしょう。イタリア人にとっては、人生の指針だったりするのかもしれません。偶然とはいえ、私たちが訪れた日がホテルのリオープンと重なったことも、ミオ・マリートはより刺激を受け「パッショーネのレベルが上がった」ことはいうまでもありません。
そして、新たなリモートワーク生活とともに、新たなパッションを秘めたモデナ生活がリスタートです。