写真・文=橋口麻紀

ロックダウン生活は、フェーズ2へ

 イタリアも新緑の季節到来です。ロックダウンが始まって約2カ月。当初の予定では、5月4日にロックダウンは解除されるはずだったのですが、5月末までに延期となり、まだまだおうち時間は続いています。どんな時でも季節が巡り、太陽が降り注ぐ幸せを、今年は世界中の方々が感じていることかと思います。

 そしてイタリアは、ウイルスとの共存期間に相当する「フェーズ2」に入りました。

 公園でお散歩したり、ランニングしたり、同じ州内であれば両親や親戚を訪ねることも可能になったりと、これまでのように外出自己宣誓書を携帯しなくとも外出ができるようになりました。また、製造業などにおいては先月末より一部は再開し、少しずつ以前の生活に向けて稼働し始めました。

 イタリア政府は、むこう2カ月の緩和政策を具体的に国民へ向けて示しています。全面解除を目指し、変わることなくイタリア人も踏ん張っています。そして変わらずイタリア人は、規制ある日々の生活を、より豊かにするオリジナルスタイル、Il mio tempo(自分の時間=イル・ミオ・テンポ)をつくり、リモートワーク生活のオン・オフのスイッチにしています。

 ミオ・マリート(私のダンナさま)の日常の物語「イタリア・ロックダウン生活のフェーズ2編」は、愛する家族によって養われた、イル・ミオ・テンポにより、この難局を過ごしているお話です。

お庭でリモートワーク中のダンナさま

ミネストローネにならないために

 リモートワーク生活スタイルも、板についてきました。ソーレ(太陽)をこよなく愛すミオ・マリートは、可能な限り太陽を浴びる場所をどんな時でも探しています。もちろん、単純にソーレの下でのお仕事は気持ちがいいのですが、理由はそれだけではないようです。

 ミオ・マリート曰く「このリモートワークが長く続くと、まるでミネストローネみたいになってしまう。ちゃんとマインドを仕事モードにするために、今日はイル・ミオ・テンポをアウトドアでしたんだよ」と。

 ミネストローネとは、なんとも面白い。

 ミネストローネは、いろんな野菜をお鍋に入れて、コトコトゆっくりと煮込む料理。アタマにあれこれ詰め込んで、長時間でも仕事ができてしまうリモートワークは、ミネストローネのようなもの。いろいろと詰め込んだまま、一日がくるくるとまわってしまいそうだ、と説明してくれました。

 ミオ・マリートの表現に思わず、笑ってしまったのですが……。

 オン・オフを切り替えて、家族との時間を何よりも大切にするイタリア人。一日のメリハリをつけてミネストローネにならないための、ミオ・マリートのイル・ミオ・テンポから、ロックダウンの過ごし方を愉しんでいただけたら嬉しいです。

 

バールとアペリティーボの朝と夕

イル・ミオ・テンポの朝編=バール

 オン・オフを切り替え、家族との時間を何よりも大切にするイタリア人。一日のオンスイッチの切り替えのために、毎朝バールに行っていたミオ・マリートでしたが、今はバールが休業中なので行けません。そこで、ある朝、小さなバルコニーをバールに見立ててバールタイムを始めました。この自分時間をつくることで、仕事モードにスイッチングできる。リモートワークをしているテーブルでカフェをするのでは、なかなかオンにはならないからだそうです。

 キッチンにあるものを、ふと思ったアイデアでやってみる。それだけでも、今日が昨日とは違うハッピーになるのです。

イル・ミオ・テンポの夕方編=アペリティーボ

 また、とある日のミオ・マリートによるイル・ミオ・テンポは、リモートワークを早く終え、私も大好きなコトである「アペリティーボ」を。お食事をする前に、好きなドリンクとスナックでリラックスするアペリティーボは、本当にイタリア人の生活には欠かせないコトなのです。

 いつもは、バールに出かけてアペリティーボをするのです。自宅でするアペリティーボも、また至福の時間です。なにより気分転換になります。イタリア人は、仕事が終わったら、限りなく定時には帰宅します。そして、その帰宅中にモードを切り替えます。

 今は、おうちアペリティーボで気持ちをオフモードに。そして、家族の時間に戻るのです。

 

パッセッジャータができる!

 イタリア人にとってPasseggiata(パッセッジャータ=お散歩)は、最も大事なイル・ミオ・テンポです。イタリア人の人生に欠かせません。何の目的もなく、ただお喋りをして歩くこと。イタリアにいると、いつも耳にするのが”Facciamo bella Passeggiata!” (ファッチャーモ ベッラ パッセッジャータ=素敵なお散歩をしましょう!)です。時間帯を問わず、老若男女問わず、時間さえあればお散歩をします。

 イタリア人にとって大事なこのお散歩ができるようになったことは、何よりもハッピーなことなのです。この貴重な時間があることで、リモートワークをなんとか乗り切れるといいます。

 ミオ・マリートが小さな子どもの頃はノンナ(おばあちゃん)やマンマと。実家へ行った時には、マンマを誘ってパッセッジャータをしていますが、今はだいたい私がお散歩のお供です。小さい時から人生には欠かせないお散歩。目的もなく歩く、本当のお散歩は最高のイル・ミオ・テンポなのです。

 本当に久々のお散歩で、ちょっとテンションが上がり今まで通らなかったエリアで見つけたペイントや教会の数々。ゆっくり時間をかけていつもの街をちょっと違うルートでお散歩すると、素敵な景色が目の前にあらわれます。お散歩しながら、アート鑑賞ができるのもイタリアらしさですね。

 約2カ月ぶりのお散歩で、パワーチャージです。

 お散歩はリフレッシュになるし、モードの切り替えにもなります。ひとりの場合は思索をすることもできる。家族との会話から、何かしらのヒントを得ることもある。意外にも意味があるのです。

 またミオ・マリートは、「 パッセッジャータは、コミュニティに参加している気持ちになれる」といいます。社会とのコネクションをつくり、ひいては、それが安心感につながるのだといいます。イタリア人のライフスタイルって素敵です。

 完全なロックダウン解除には至っていないものの、 パッセッジャータができることになったことは、誰もが社会とのコネクションをつくり始められ、イタリア人にとっては、この有事に一番の解放感を感じられたことでしょう。イタリア人のお散歩については、また改めてお話します。

 家族によって養われてきた、小さなことでも自分時間を工夫して、生活に息吹を与えるイタリア式のイル・ミオ・テンポ。日常を少しでもスペシャルにしているミオ・マリートは、ミネストローネのならないように、今日も小さなアイデアを見つけています。

 世界中が一日も早く平穏な日々に戻ることを祈るのみです。