ホールフーズ・マーケットの新店(ノマッド店)の1階全景 〔撮影〕平山幸江

 2017年6月にアマゾンがホールフーズ・マーケット(WFM)の買収を発表してから、ちょうど5年が過ぎた。6月1日にマンハッタン内12店目のWFMがフラットアイアンビルの近く、フランクリン・ルーズベルトも住んでいた歴史的高級住宅地区ノマッド(NoMad)に開業した。この通常よりやや大型で2層の店舗にはマーチャンダイジング上の特徴や工夫はあるものの、特に目新しいテクノロジーは使われていない。

 過去5年間でWFMは買収当時の約460店舗から511店舗と50店舗程度しか数を増やしていない。しかし、アマゾンの食品売上高は2017年時点で全米5位、市場シェア3.5%[1]から現在、全米2位[2]へと成長し、WFM事業の業績詳細を明かさないアマゾンだが、買収効果は同社のオンライン食品販売の拡大に貢献しているようにも見える。

 一方、2020年8月に登場したレジレススーパーマーケットのアマゾンフレッシュは33店舗(2022年6月12日現在)、アマゾンゴーは26店舗とレジレス店舗は着実に数を増やしている。伝統的店舗とレジレス店舗と2つのベクトルを持ったアマゾンの店舗戦略はどうなっているのだろうか。

ローカル商品と店舗経験重視のノマッド店

 同店は面積5017㎡。2階が床面積の大部分を占め、1階には地元で人気のコーヒーバー「カフェ・グランピー」とキッチンコーナーがあり、WFM直営の地中海料理「ザタール(Za’atar)」、ピザ、寿司「キッカ」などの調理済食品販売および飲料が壁面に並んでいる。

 中央には4機の大型ホットバーおよびサラダバーがあり、量り売り販売を行う。他に大型のフローリストがあり、昼食や夕食の買い出しなら1階だけで完結する。1階のレジは17台のセルフレジのみで、スピーディに買物を終了できる。

 2階は生鮮食品、対面式精肉・鮮魚売場・ベーカリー・チーズ専門売場、パントリー、ウェルネス&ビューティといった通常の売場以外に、WFM直営のレストラン&バーと大型の顧客サービスカウンターがある。対面式売場には、オーブンや店内キッチン、精肉加工を目の前で見られるガラスで仕切られたオープンキッチンなど、見て楽しむ要素が多い。また、道路側の壁面はガラス張りなので街の風景もよく見える。

2階パントリー。エンドでは販促だけでなく、ローカル商品がフィーチャーされている 〔撮影〕平山幸江
精肉売場にあるキッチン 〔撮影〕平山幸江

 WFMはもともとローカルフードに重点を置いてきたが、昨年からは地区ごとに地元食・製品を探索する担当者名を前面に出し、彼らが店舗ごとに商品編集している点をアピールしている。同店でもローカル製品を1000アイテム以上販売しており、その領域は食だけでなく化粧品やキャンドルなどのウェルネス&ビューティ部門にも及ぶ。

 ローカル製品には店頭POPを多用し、生産者・製造者が自社製品を抱えている写真と社名・ロゴを入れ、視覚的にも強くアピールしている。開店時にはブルックリン発のヨーロッパ式に製造したビーガン向けチーズ「ラインド(RIND)」やブルックリン発フェアトレードのチョコレートショップ「ノースサウス(North South)」がローカル食品専用スタンドで試食と説明を行っていた。

ローカル商品のPOP。右はロチェスター市の「イサカクラフトフムス」、左はブルックリンの「ジャジャパジャー」サルサ 〔撮影〕平山幸江
ブルックリン発ビーガンチーズ「ラインド」の試食デモ 〔撮影〕平山幸江

 このようにWFM最新店舗は、ハイテク要素は無いが、商品のローカライゼーションを軸に良質でヒューマンタッチな体験を提供する、という同店コンセプトが十分に継承された店となっている。