NTTコミュニケーションズ株式会社 ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部
スマートファクトリー推進室 室長 赤堀 英明 氏

 コロナ禍によるグローバルサプライチェーンの断絶、カーボンニュートラルへの対応、テクノロジーの進展によるグローバル競争の激化など、製造業を取り巻く環境はかつてないほど急激に変化している。日本のものづくり産業は、スマートファクトリーの推進によって、かつての輝きを取り戻し、新たな競争優位を獲得することができるだろうか。NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 スマートワールドビジネス部 スマートファクトリー推進室 室長の赤堀英明氏に話を伺った。

製造業のDXを支援するため、3つの取り組みを推進

 工場内(In-Factory)・工場間(Inter-Factory)をつなぐことでデータを基にした仮説検証・改善サイクルが可能な基盤を作り、企業や業界、地域の垣根を超えたソリューションを生み出すEcosystemを形成し、日本のものづくり産業の成長を支援する――。NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)スマートファクトリー推進室が掲げるビジョンにはこうある。同推進室室長を務める赤堀英明氏は、これまでの活動を次のように語る。

「データドリブンな仮説検証のプロセスを回すことでDXを実現できるのではないかと考え、①Inter-Factoryの領域から着手しました。これを進めていく中で、工場内でのデータ利活用が遅れていることやセキュリティ脅威への対策が不十分であることが判明し、②In-Factoryの領域にも注目しました。一方、製造業のサプライチェーンがグローバルに広がっていく中で、EUなどではデータ主権への取り組みも見られます。これに各企業が独自に対応する場合、労力が非常に大きくなるという課題が想定されます。私たちは“つなぐ”というテクノロジーを基盤として、③Ecosystemを作り、これを活用頂くことで、製造業全体の成長をご支援できると考えています。以上、大きく3つの取り組みを進めてきました」。

 こうした活動の背景には、日本の製造業を取り巻く環境変化がある。「グローバル化と保護主義の高まりが同時並行で進む中で、コロナ禍のような不確実性にも耐えうる柔軟性を備えたサプライチェーンを構築しておく必要があること。サステナビリティやESGに対する意識の高まりを受けて、サプライチェーン全体で温室効果ガスの排出削減に取り組まなければならないこと。グローバル競争で生き残っていくには、ものづくりの根幹となる設計力の強化がかつてないほどに問われるなど、課題は山積しています」と赤堀氏は話す。

 課題解決のカギを握るのがデジタルを活用した非連続な改革である。NTT Comでは、スマートファクトリーを推進する上で大きく2つの領域があると考えている。1つは、各企業の競争力に直接関わらないが、共通的な業務や問題が存在する「共創協調領域」だ。もう1つは、各企業がそれぞれの強みを発揮する「コアコンピタンス領域」だ。

 共創協調領域において、NTT Comは業界全体をデジタル化・ユーティリティ化する業界協調型デジタルプラットフォームを提供している。「これによって共創協調領域の効率化を図ることで、企業は自社のリソースを注力すべき真のコアコンピタンスへ集中することが可能になります」(赤堀氏)。

 複数の企業のデータが共存する共創協調領域では安心・安全なデータ流通を担保するべく、NTTが掲げる「DATA Trust®」の構想を具現化し、「withTrust®」の名称でサービス化を目指している。

4つの領域でテーマを定め、ソリューションを開発・提供

 In-FactoryとInter-Factoryを横軸に、共創協調領域とコアコンピタンス領域を縦軸に4象限に分けて、NTT Comスマートファクトリー推進室が注力するテーマをプロットしたのが下図である。

 ここでは、企業の垣根を超えた共創協調領域にある「デジタルマッチング(設計/調達DX)」について紹介しよう。高品質なものづくりで知られる日本の製造業は、設計、調達、製造の工程において発注側と受注側の間で、「擦り合わせ」といわれる非常に緊密なコミュニケーションが頻繁に行われている。それは日本のものづくりの強みである半面、標準化されていないがゆえに非効率が残る世界でもある。ここをデジタルでつなぎ、例えば、設計・調達・見積業務を支援するレコメンド機能を持たせることで、データ活用による設計・調達業務の効率化が可能になる。

 「まだまだ、“点”としてサービスを提供しているに過ぎませんが」と話す赤堀氏だが、「R&Dから保守・サービスまでサプライチェーン全体を一気通貫でつなぎ、データで見える化することができれば、どこにボトルネックがあるのかを可視化できます。例えば、R&Dの工程で一定の段階にまで来ている試作品を製品化する場合に、次の工程をどのように進めるべきなのかといったこともデータに基づいた判断ができますし、あらかじめ準備もしやすくなります」とサプライチェーン全体に対する一気通貫のサービス提供に意欲を見せている。

AIとデータ利活用で問題を解決し、新規ビジネスを創出

 スマートファクトリーの実現によってもたらされる効果について、具体的な事例に基づいて説明しよう。

 「AIプラント運転支援ソリューション」を実化学プラントに導入し実証実験に成功した、NTT Comと横河ソリューションサービス株式会社との共創案件である。環境問題への対応およびサプライチェーンの多様化に伴い、多品種少量生産、変種変量生産の必要性が増し、既存の自動制御では対応ができずに手動操作の必要なプラントが増えている。
手動操作が必要なプラントにおいては、以下の問題が存在する。

1.オペレーション品質における問題
・運転員毎に操作パターンが異なるので運転品質にムラがでる
・複雑化した運転をする際に勘やコツに頼っている

2.労働人口減少における問題
・明文化が困難で、若手に教えることが難しい箇所がある

3.改善活動における問題
・日常操業が忙しくて改善活動に工数が割けない

 そこで、横河ソリューションサービス株式会社の知見をもとに、既存の自動制御では対応ができず、手動操作の必要なプラントでも、AIが適切な値を推奨し、更にAIが推奨値を導いた根拠を提示するシステムの開発を行った。この事例で特筆すべきポイントは、単なるAIエンジンの提供にとどまらないことだ。

 NTT Comと横河ソリューションサービス株式会社は、まずクライアント16社に対してヒアリングを行い、この問題解決によってビジネスにどれぐらいのインパクトがあるのかという事業性検討を行った。あわせて、NTT ComはAI開発に必要なツールや技術、ノウハウなどを提供し、AIモデルを開発。これを用いてPoC/PoT(概念実証/技術検証)を行ったのちに、クライアントの実プラントにおいて、AIの簡易的な実行環境を開発し、PoB(ビジネス性検証)を実施した。「PoBにおいて実プラントにおける本ソリューションの有効性が高く評価されたことから、商用化開発を行い、2022年4月8日に両社で製品リリースに関するニュースリリースを行いました」と赤堀氏は説明する。

 この案件と同様に、クライアントのコアコンピタンス領域の問題に対してAIを用いたデータ利活用ソリューションを提供することで、新規ビジネスの創出につながったもう1つの事例が、「AI建機汚染スコアリングサービス」だ。

 建設現場で使用される建機の多くはレンタルで、レンタル返却後、汚れや傷などの具合によって修繕費が発生する。修繕費用の見積は、従来、主にベテランの従業員が行っていたが、その評価に属人的・地域的なバラつきが存在したり、検品遅延による有償請求の取りこぼしがあったという。

 「AI建機汚損スコアリングサービス」は、スマホで撮影した写真の画像を解析することで、汚損のスコアリングを誰でも、簡単にできるようにした。評価業務を標準化し、全国で基準を統一することによって、今後は検品の迅速化による潜在利益の確保や、ベテラン従業員のコア業務へのシフトといった効果も期待されており、対象とする建機の範囲も広げていく予定だ。

国際データ流通プラットフォームの提供による
サプライチェーンのマネジメント支援

 国・地域をまたがるデータ流通において、今春以降、話題となるトピックが欧州の「GAIA-X」である。日本企業が欧州企業と取引する際、欧州が自国・地域のデータ主権保護を目的に開発したこのデータ流通基盤への対応が求められる可能性がある。

 NTT Comは「GAIA-X」に対応した「国際データ流通プラットフォーム」を提供。日本国内と欧州域内になるクラウド上にテストベッドを構築し、「GAIA-X」との相互接続のトライアルを実施している。

 「各企業のシステムを個別に『GAIA-X』に対応させるには、同基盤の技術標準に対応した技術者の確保や、多くの時間とコストを伴うシステム改修が求められ、一般にハードルは高いと言えます。本トライアルはそうした負担を軽減するための取り組みです」(赤堀氏)。現在、複数の企業・団体がトライアルに参画している。

 「グローバルなデータ流通という、まさに通信キャリアにふさわしい領域を“一丁目一番地”として、サプライチェーン全体のマネジメントを支援するソリューションの提供を通じて、製造業の効率化、品質の向上、カーボンニュートラルに代表される社会課題の解決に貢献していきたい。技術立国日本の復権に今後も尽力していく所存です」と赤堀氏は展望を示し、締めくくった。

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