いわゆる高級シャンパーニュではない

さて、ここからは、では、アルマン・ド・ブリニャックとはどんなシャンパーニュブランドなのか、だ。

アルマン・ド・ブリニャックは「成功者のためのシャンパーニュ」として知られている。メゾン設立に深くかかわり、現在、共同オーナーにしてシンボルでもあるジェイ・Z(ショーン・コーリー・カーター)は、ブルックリンの底辺から、史上もっとも偉大なラップミュージシャンへと上りつめた人物だ。経済的にも世界屈指の裕福なセレブリティ。アルマン・ド・ブリニャックの愛好者にもジャンルを問わず、偉業を成し遂げた成功者が名を連ねる。

私は当初、その情報から、アルマン・ド・ブリニャックは、荘厳で、誰もが“ああ、これは高級シャンパーニュだ”と認めるようなスタイルなのではないかと考えていた。もしかして、あなたもそうおもっているのではないだろうか? だとしたら、それは違う。

アルマン・ド・ブリニャックが高級シャンパーニュの伝統を知らないとか無視しているとかいったことではない。ジェイ・Zが、アルノー・ラルマンが、アルマン・ド・ブリニャックを愛するセレブリティが、シャンパーニュを知らないなんてことはありえない。

アルマン・ド・ブリニャックは歴史や伝統、あるいは実在するかどうかも定かではない誰かに萎縮して、すでに尊敬されているどこかのなにかの小さなコピーを造ろう、みたいな気持ちがないのだ。そもそも、そういうのでいいのなら、ピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワールなどという高難度のシャンパーニュをブランドのトップに持ってくることもないだろう。

自分はこういう人間だ。こう考える。これがいいとおもっている。それをハッキリと口に出して言うタイプだ。そして言ったからにはやり通すタイプだ。だからいつかその声が世界の常識を変えてしまうかもしれない。

個人的な好みで言えば、私は高級シャンパーニュはもっとオールドスクールなスタイルが好きだ。ただ、シャンパーニュに限らず、私の固定観念を変えてきた作品はあるし、アルマン・ド・ブリニャックもまたそういう存在なのではないか? という期待があった。

アルマン・ド・ブリニャックの社長兼CEOジャスミン・アレン

今回の発表イベントで、アルマン・ド・ブリニャックの社長兼CEOジャスミン・アレンは、Legacyという言葉を何度も使った。それは、受け継いだ伝統という意味ももちろんあるのだろうけれど、むしろ未来のある時点で振り返って現在を見た時、今この瞬間、このシャンパーニュはLegacyになっている、という意味だと私は考える。偉業を成し遂げた成功者というのは、そういう感覚なのではないだろうか?

そしてそうであるなら、アルマン・ド・ブリニャックは自分の過去もLegacyにしながら進んでいくということでもあるのだろう。彼らの道はどこに至るのか? どんな道を歩んでいくのか? そこにシャンパーニュの未来があるのなら、それはぜひ知りたい。

まぁそれは、もしも私にまた、アルマン・ド・ブリニャックに触れる機会が来るのなら、なのだけれど。