シャンパーニュ メゾン アルマン・ド・ブリニャックが同ブランドの最高峰「ブラン・ド・ノワール」の最新作「ブラン・ド・ノワール アッサンブラージュ  No.5」を発売した。世界限定わずか8,165本。希望小売価格215,900円(税抜)!

アルマン・ド・ブリニャック
ブラン・ド・ノワール アッサンブラージュ No.5
(Armand de Brignac Blanc de Noirs Assemblage No.5)

ピノ・ノワール 100% / ドザージュ :6g/l / ヴィンテージ :2014年(10%)、2015年(20%)、2016年(70%) / 熟 成 :澱と共に7年熟成 / アルコール度数:12.5% /
容 量 :750ml(ギフトボックス仕様)/ 8,165本限定(シリアルナンバー・デゴルジュマンの日付入り)/ 希望小売価格 :215,900円(税抜)

言うべきことを最小限にまとめれば、このくらいのはずだし、アルマン・ド・ブリニャックが欲しい人にとっては、この情報だけで十分な気がする。

だから多分、以下は長い蛇足だ。

なぜ私はアルマン・ド・ブリニャックを紹介するのか?

なぜ私はここでアルマン・ド・ブリニャック「ブラン・ド・ノワール アッサンブラージュ No.5」(以降、A5)について書くのか? 

それはなにより、アルマン・ド・ブリニャックが東京でこのA5のグローバル ローンチ イベントを開催したからであり、かつ、そこに私が招かれたからだ。

まずは少し前提の話。

ワインは他のアルコール飲料よりは高価な傾向にあり、そのなかでもシャンパーニュは高価だ。しかし、トップレンジの価格で比べた場合、二次流通やバックヴィンテージを別にすれば、シャンパーニュの上限は通常そこまで高くない。

例えば、赤ワインのトップレンジには1本10~30万円くらいのものがそこそこある。一方、シャンパーニュのトップレンジは3~5万円くらいである。

しかし世の中には常に例外がある。アルマン・ド・ブリニャックはその例外だ。なにせこのブランド、シャンパーニュ界隈ではもっともお買い得なカテゴリである“ノンヴィンテージのブリュット”に相当する「アルマン・ド・ブリニャック ブリュット・ゴールド」で3万円代中盤。この時点でもう名門シャンパーニュメゾンの最高峰作品と互角の価格だ。

今回話題にしたいA5は先述の通り20万円超えである。このレベルは両手で数えられるくらいしかない。あるいは片手で数えられるくらいしかないかもしれない。

そんなものを私のような市井の人間が生活のなかで味わう機会はまずないし、メディアの人間としても、アルマン・ド・ブリニャックは一部の例外的存在を除けばワインジャーナリストのようなものが参加できるイベントをこれまで開催することはなかった。

ところが東京で開催するA5のグローバル ローンチ イベントには日本のメディア関係者も複数招くというのである。

イベントの案内に書かれていた情報は以下のとおりだ。場所は人形町の老舗料亭「玄冶店 濱田家」。ここをアルマン・ド・ブリニャックがジャックして、シャンパーニュ地方唯一の3ツ星料理店「ラシエット・シャンプノワーズ」のアルノー・ラルマン シェフが料理を振る舞う。合わせるワインは「ブラン・ド・ノワール アッサンブラージュ No.1」から「No.5」(A1からA5)の5作品。すべてがピノ・ノワール100%のブラン・ド・ノワールである。そして今回がアルマン・ド・ブリニャック始まって以来の垂直テイスティング(歴代作品を一度に試すこと)だという。

そんなところにアルマン・ド・ブリニャック初体験の私が行っていいのか? 正直、かなり迷った。参加を決めたのは「ワインは一期一会。今という時を逃して、再び会えるとおもうな!」という自分の声に押されたからだ。いや、ちょっとカッコつけた。この10年ほど、私には数々の思い出がある。せっかくの機会を逃して二度と会えなくなったあのワイン、このワイン……何年経っても味わえないままの数々のワインの名が私の頭から消えることはない。

ここを逃して二度目は来ない!とアルマン・ド・ブリニャックに会いに行った。そして、そこで得られた体験は私の想像していたものではなかった。それをここで、私は伝えようとしている。

もはや東京にはほぼ現存しない数寄屋造りの料亭「玄冶店 濱田家」にアルマン・ド・ブリニャックののれんが!

アルマン・ド・ブリニャックの渾身作 A1からA5までを一気に試す

かくしてA1からA5までのアルマン・ド・ブリニャック ブラン・ド・ノワールである。

しかしその前に、こういうイベントには当然のように、ウェルカムドリンクというものがある。そしてそれは当然のように「アルマン・ド・ブリニャック ブリュット・ゴールド」である。2006年、キャティアというシャンパーニュメゾンから生まれたアルマン・ド・ブリニャックが最初にリリースした作品の最新版だ。

 アルマン・ド・ブリニャック ブリュット・ゴールド

美しいゴールドのボトルにはスペードのエースの形をしたピューターラベル。

その強烈な存在感に酔わぬよう、気をしっかり持ってグラスに注がれたワインと向き合った。あれ? この時点で想像していたのとかなり違った。そして、この感覚が結局、その後のアッサンブラージュシリーズでも続いた。

メイン会場へと移動する。

こんな席に着席します

定められた席に着席して、最初の料理とともにあらわれたのが「ブラン・ド・ノワール アッサンブラージュ No.1」(A1)。おそらくこれが今回一番のレア物だ。3,000本造られ、2015年にハロッズが独占的に販売したというこのシャンパーニュは、今回、解説役を務めたアルマン・ド・ブリニャックのソムリエ兼北米地域コマーシャルオペレーション担当プレジデント モニカ・カウフマンによればあくまで試行錯誤段階にある作品。さらにもう飲み頃を過ぎているという。

モニカ・カウフマン
アルマン・ド・ブリニャックのソムリエ兼北米地域コマーシャルオペレーション担当プレジデント。アメリカ・ソムリエ協会認定ソムリエであり、出身はポーランド

2009年を中心に(全体の70%)2008年と2006年をブレンドしている。何度か香りを試し、味を試し、たしかに、完成から長い年月を経たネガを指摘することはできるのかもしれない、とはおもった。しかし個人的には、これは全然アリだった。

長い時間は香りや旨味にポジティブに解釈できる要素ももたらしているようにおもう。それにこのシャンパーニュには酸味がまだ十分にあるし、なによりまだまだ力強いエネルギーがあった。それは、この力強さは全盛期にはもっとあったんだろうなぁとはおもった、という意味でもあるけれど、ブジーやヴェルズネイのピノ・ノワールが、このブラン・ド・ノワールらしい力強さに特に効いているとカウフマンは言った。

続くA2はA1の翌年にリリースされた。やはり試行錯誤要素をもった作品とのこと。2010年をベースに2009年、2008年が加わっている。2010年のシャンパーニュ地方が気候的に非常にトラブルの多い年だったので、出来の良いブドウの収穫量は少なく、生産数は2,233本にとどまる。あれ、こっちのほうがA1よりレア物かもしれない……方向性はA1とだいぶ違って、パワーよりサッパリスタイル。ただ、正直に言って、だいぶサラっとしていると感じた。おそらくA2は微細な振動や光が表現する美を楽しむアートのようなものを志向した作品だとおもわれる。それが、想定よりおそらくちょっと長い瓶内熟成がもたらした一種の重厚さによって、現在ではいささか感じづらくなっているようにおもえた。

ただ、これはアルノー・ラルマン シェフが合わせた料理が素晴らしくて、ワイン単体だと見逃しかねない要素をぐっと引き立てていた。

シェフがA2に合わせた料理がこちら。白身魚と焦がしたオニオン、ヴァン・ジョーヌのエマルジョンという料理で、メイラード反応やフローラ(産膜酵母)というワインにもある風味をあえて強く出すことでコントラストを生み出し、A2の繊細な要素をポジティブに引き立てていた。スゴい!

A3に行こう。ここからが本領発揮だ。A1、A2という方向性の異なる作品を造ってアルマン・ド・ブリニャックがジンテーゼ的に選択したのは、A1の力強さを中心に、A2の微細な表現を加える、というもの。シャンパーニュの、収穫量は少ないけれど優れた年である2012年のブドウをベース(70%)に、2010年と2009年をブレンド。3,535本の生産量で6年熟成し、2019年にリリースされた。現在はリリースからさらに6年が経過しているので、ある種のさらに熟成した香りと、液体の照りのようなものを感じるのだけれど、ただ、この要素は、造り手がワインに不可欠な要素として計算に入れて造ったというよりは、そうなることは見越しつつも、それがなくても成立するように造っていると私は解釈する。本質的には、骨太な酸味と、力強い味わいのワインだ。

ワインは必ずしも最新が最良とは限らないけれど、このブラン・ド・ノワール シリーズに関しては、アッサンブラージュ ナンバーが進むほどにキャラクター性がハッキリしてくる。A4は……これについては日本の誇る例外的ワインジャーナリストである柳忠之氏が昨年、オートグラフに寄稿してくれている通りで、引用すると「これほど長期熟成を施したブラン・ド・ノワールにもかかわらず、重々しさなどいっさい無縁の快活さと若々しさを備えている」

生産量もA4からぐっと増えて、7,328本。その下にデゴルジュマンは2023年4月20日と書かれている

2015年を主体として、2014年と2013年をブレンドしたA4は、非常にしっかりとした酸味と、強い旨味がある。ピリっとした刺激も感じる。シャンパーニュの2015年のブドウは、一般的には個性的で、そのキャラクターがワインを支配しやすいとおもうけれど、A4はブドウの個性を自分の個性に取り込んでいる。また、複雑性については、A3よりさらに一歩進んでいる。この複雑性ゆえに、柳氏の言う通り「料理とのペアリングでは万能」。ガストロノミックなシャンパーニュとしての性格を確立している。

最新のA5は、このA4の正統続編。ブドウの収穫年は2016年が70%、そこに2015年(20%)と2014年(10%)を加えて今年リリース。もはや迷いはないといった雰囲気。シリーズを通した特徴である、ワインを支えるしっかりとした背骨といった感じの酸味は、よりニュアンスに富み、ある種の野性味や、旨味のある苦みのような要素も獲得している。あえて、オーブ県というシャンパーニュの歴史的な地区よりも南方、ブルゴーニュ(特にシャブリ)に近いブドウを10%使い、赤ワイン的ともいえるキャラクターを補強している。

A2のあたりまでは、シャンパーニュ理解の補助線的性格のあったアルノー・ラルマン シェフの料理は、A4、A5の頃になると、もう表現と表現の真剣勝負といった様相を呈していた。

力強いA5にシェフは外側はカリッと、内部はふんわりと仕上げた和牛を合わせた

アルマン・ド・ブリニャックが今回、メディアも招いてのお披露目を行った理由のひとつはこれだろう。A1が誕生してから10年。このシリーズがガストロノミックなシャンパーニュとして、どう成立していったのかを、その変遷とともに知らせたかったのだ。