
自動車大国が認めたベストファミリーカー?
今回、私が「Alfa Romeo Premium Drive」というイベントで実際に走らせたのはトナーレのプラグインハイブリッドモデル(PHEV)だったのだけれど、個人的に今、アルファロメオを買うなら? (買えるとして)で考えるならジュリアとステルヴィオがかなり魅力的だ。
というのもこの2モデルは2016年に登場しているため、もうしばらくすれば次期モデルの登場が確実視されている。だからここまでアップデートを重ねた最終形を新車で入手できる美味しいタイミングは今なのだ。ワインで言えば、造り手の手元できっちり熟成した名ヴィンテージのような状態。今後しばらくは、アルファロメオのラインナップも電動化が進むはずだから、純粋な内燃機関のアルファロメオの最終版的な魅力もある。

一方のトナーレは今後のアルファロメオを予告するようなモデル。特にPHEVのそれは、電動化してアルファロメオはどうなのか?を占うクルマだ。私は半年ほど前の記事制作で結構な時間をこのPHEVのトナーレと一緒に過ごしたのだけれど、このときは実はバッテリー残量がほとんどない状態での運転を担当していて、ドイツの雑誌『AUTO Straßenverkehr』が主催する「ファミリーカー・オブ・ザ・イヤー」アワードで2024年、輸入車部門と総合ランキングの両方で1位を獲得したというその実力のほどがよくわからなかった。
今回はほぼバッテリー満タン。ようやく本当のトナーレだ! 果たして自動車大国ドイツのユーザーが最良のファミリーカーと評価した実力の程はいかに!?
話の通じるヤツ
いやいや、全然違いました。
バッテリー残量がわずかな場合でも、確かにトナーレは発進や加速時にはモーターを使ってくれた。ただ、ほとんどの場面で180PS・270Nmの小さなエンジンで頑張っていた。トナーレは人が乗っていないフル装備状態で1,880kg。サンルーフがつく限定モデルだと+20kg、人や荷物が乗れば、すぐに2トンを超えることを考えれば、このエンジン(と若干のモーターのアシスト)は十分にスゴい。困ることはない。ただ、アルファロメオらしいか? と考えると疑問が残った。言ってしまえば普通にいいクルマっぽかった。

今回、フルチャージ状態のトナーレでまず感じたのは各種コントロールへの応答スピードの早さだった。面白いことに、加減速だけでなくハンドル操作に対する反応も、充電が十分な方が早いと感じた。これはリアの128PS・250Nmという、ほとんどエンジン一個分の能力をもったモーターがちゃんと仕事できるかどうかの差としか考えられない。
特にコーナーと言うほどでもない、高速道路の、それなりに速度が出ている状態で走り抜けるゆるいカーブでの身のこなしは爽快だった。一般的なクルマはこういうシチュエーションでは、ハンドルで狙ったラインよりちょっと外側へ行こうとする。これは物理的には自然なことなのだけれど、トナーレはむしろ内側に行こうとするような感覚がある。自重に対して十分な出力がある後輪駆動車的な雰囲気だ。こういう挙動はクルマに力みのようなものがなく、伸びやかで心地よい。
あわせて味わいが上品だ。軽快だけれど軽々しくない。機敏だけれど雑なところがない。にもかかわらず、あえてドライバーがちょっと大げさな、あるいは素早い操作を行えばちゃんとそれには応えてくれる。走行モードには標準でD、N、Aの3モードがあって、Dだと機敏さ優先、Nだと上品さ優先といった味付けなのだけれど、どちらの場合でもドライバーの意思が最優先された。

特に感心するのはドライバーのちょっとしたミスはクルマがカバーしてくれるけれど、はっきりしたミスはミスとしてドライバーに気づかせてくれるところで、これが本当に気持ちがいい。いったいどのへんにこのしきい値があるのだろう? すごく絶妙なセッティングだとおもう。クルマにわかってもらえない、コイツとはそもそも話が通じない! という感覚がない。私にはこれが一番、トナーレのアルファロメオっぽさだと感じた。
褒めてばかりではなく、気になったところも言っておくと、やっぱりこのクルマ、重たいは重たい。特にちょっとしたギャップを乗り越えた際などに、重たいものがドシンと落ちる感覚はどうしてもある。ここは技術でうまくカバーしていて、乗り心地や走行、特に曲がる際などに悪影響が出ないようになっているのだけれど、それだけに人工的に押さえつけたんだな、という感覚になってしまう。いやこれは褒めていいことなのだとおもうけれど、なにせ普段が機敏で軽快なだけに、たまーに感じるこのリアルな重量感はちょっと夢が覚める感覚になる。

それからインテリアの質感には良くも悪くもメリハリがある。ラテン文化の実利主義(プラグマティズム)を感じるところで、多少使いづらかろうが、普段、見ない・触らないところだろうが、とにかく全部、豪華絢爛にする、みたいな思想で作られているわけではない。それが気持ちいい人と、どうしてもひっかかっちゃう人はいるとおもう。また、これとあわせて、シートやハンドル、ミラーなどは、ぴたっと来るところにしっかりと合わせることを強く勧める。自分のいる位置がいい加減だと、アルファロメオが狙った世界観からズレた体験になってしまう。ここのわずかな差が体験にもたらす差が大きいクルマだとおもう。
ちなみに、アルファロメオの名誉のために言っておくけれど、これはあくまでインテリアに限った話で、走行に関係する部分は見えないところまでえらく贅沢だと聞いている。実際、そのあたりをどうせ分かんないでしょ?と手を抜いていたら、ジャーナリスト各位がすぐに見抜いて、アルファロメオの栄光は今頃、泥にまみれ、アルファロメオの懐はもうちょっと膨らんでいるはずだ。

ファミリーカーか?
ということで、約半年ぶりのトナーレとのドライブは、短い時間だったけれど、楽しかった。最後に、このクルマがなぜファミリーカーとして高い評価を受けたのか、その理由を考えてみたので話しておきたい。
まず、乗り手を選ばないとおもう。運転に自信がある人にとっては、とても素直に意思を反映させられるクルマだ。クラシカルな運転テクニックは通用する。一方で、運転にそんなに意識的ではない人にとっては扱いやすいクルマになるに違いない。操作に対しての反応がわかりやすいから、もしかしたら、運転の楽しさを教えてくれるかもしれないし、うまく運転したい、という欲を掻き立ててくれるかもしれない。
また、自分で運転すると楽しいクルマだけれど、パッセンジャーとして乗っていてもこのクルマはその挙動からドライバーの気持ちやクルマのキャラクター性が伝わってくるので楽しい。装備類には、過はないかもしれないけれど不足はない。
室内も荷室も実用上、十分に広いものの、サイズが大きすぎないのも、日本の交通環境では使いやすいはずだ。まぁこのあたりはCセグメント車が自動車業界の中核になる理由でもあって、そういうCセグメント車として求められる実用性をあえて裏切るようなことをトナーレはしていない。
そしてやっぱりギリギリ2トン未満のPHEVという経済合理性は魅力だとおもう。EV走行距離はWLTCモード国土交通省審査値で72kmというから、自宅で充電できれば日常的にはほとんどEVだ。遠出するときは42.5リッター入るガソリンタンク+このバッテリー分なので、よしんばリッター10km程度でも500kmくらいは射程圏内。前回の経験で言うと、実際はリッター15kmくらいは現実ラインなので、すっからかんになる前に300km先まで行って、帰って来るくらいのことはできるだろう。
価格は762万円。各種税制優遇と補助金がつくのと、アルファロメオ車はそんなに派手にオプションで値段が変わらないから、実質的にはライバル車より安いくらいで手に入るとおもう。
日本の道路交通法的にそういうことはまず起こらないけれど、万が一、ドイツプレミアムブランドの似たようなサイズのクルマに直線加速で負けると悔しいというクラシカルなクルマ好きは、腕を磨いてワインディングで勝とう。そこはファミリーカーの要素なのか? と言われると微妙だけれど、アルファロメオはそもそも、美しい山と湖に囲まれたミラノのスポーツカーだ。つまり、枯れた大地をひたすら突っ走って次の商談にいち早く到着するための道具ではなく、峠道を気持ちよく駆け抜けて美味しい料理とワインにいち早く到達するための道具なのだ。