クーペとスパイダーの差をパスタでたとえるなら……

 私は幸運にもクーペ版12チリンドリの国際試乗会に参加したので判断できるが、12チリンドリ・スパイダーの乗り心地はクーペと極めてよく似ている。クーペで感じられた、乗り心地の「芯の硬さ」のようなものがスパイダーでは和らいでいたものの、その差はごくわずか。かりに前述の「芯の硬さ」を、パスタのアルデンテにたとえるなら、茹で時間はクーペとスパイダーで30秒程度の違いでしかないように思う。もちろん、車重が重いスパイダーのほうが乗り味は「ソフトめ」である。

 そうした乗り心地の変化がハンドリングに与える影響もごくわずか。いや、こちらはむしろまったくといっていいほど違いが感じられなかった。いわゆるスーパースポーツカーとは違い、グランドツーリスモの要素が強い12チリンドリは、コーナリング進入時などの姿勢変化を比較的はっきりと伝える傾向にあるが、同様の感触は12チリンドリ・スパイダーでも認められた。おかげで、車体の前後左右に荷重が移動していく様子が掴みやすく、安心してステアリングを握っていられるというメリットを生み出す。ロングクルージングに出かけることも想定しなければいけないグランドトゥーリスモとして、これは重要な資質といえる。


 フェラーリがこだわり抜いて開発した自然吸気V12エンジンは、どんな回転域でも柔軟なトルクを生み出してくれるほか、精密機械を思わせる正確な鼓動は乗る者の心を奪うほど魅力的。しかも、もともと純度が高く、高音成分が強いエグゾースト・サウンドは、エンジン回転数を1000rpm高めていくたびに音量を高めるとともに音色を高周波側にシフトさせていき、6000rpmを越える領域ではドライバーを興奮のるつぼへと誘う。その狂気とも陶酔ともつかない感情は、マラネロから生み出される自然吸気V12エンジンでなければ得られないものだ。

 例によってオープンのまま高速道路を走ってもキャビン内への風の巻き込みは小さく、パッセンジャーとも普通に会話できそう。今回は気温が16℃前後とオープンエアドライビングには絶好のコンディションだったが、かりにもっと寒かったとしても、ネックウォーマー機能を始めとする暖房が充実しているので、滅多なことでは寒いとは感じないだろう。

 ボディー剛性の低下もまったくといっていいほど感じられなかった12チリンドリ・スパイダーは、830psの最高出力や340km/hに達する最高速度などをフルに出し切ることなく、ゆったりとしたペースでロングツーリングに出かけたくなる贅沢なコンバーティブル2シーターだった。

フェラーリ 12チリンドリ スパイダー試乗会は大谷 達也氏のYouTubeチャンネル「The Luxe Car TV」でも公開中