手元に置くことで心躍る逸品がある。それは類い稀なセンスを軸に、厳選の素材を用い丁寧に作られたもの。なかでも長年にわたり、世界から認められてきたブランドの名品に絞ってピックアップ。そのストーリーを深く知ることで、本当のラグジュアリーが見えてくる。
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登
シャープなエッジを放つロックスタッズという革新
青春もののアメリカンムービーのお決まりに、主人公がステージに上がりロックンローラーさながらにギターを演奏するシーンがある。やはりロックは青春の象徴だ。エネルギッシュにギターをかき鳴らし、叫ぶように自身のメッセージを歌い上げる。こういったシーンは歳を経て見返しても、どこかグッと刺さるものがある。もちろん社会に出て数年経てば、大勢の前で楽器を演奏する機会など、ほとんどの人にありはしない。しかし、若々しいロックなハートを持ち続けたいという密かな願望を、ふと気付かせるきっかけとなるのだ。
ヴァレンティノはデザイナーのヴァレンティノ・ガラヴァーニが、イタリアはローマにて1960年に興したファッションブランド。創業の2年後には早くもフィレンツェのピッティ宮にて初コレクションを開催し、1967年にはファッション界のオスカーとも呼ばれるニーマン・マーカス賞を受賞する。
次いで68年に、白だけの服を打ち出す斬新なコレクションを成功させ、一躍世界的なブランドへと成長。メゾンの個性を表すVマークはこの時代に発案され、ゴールドのVモチーフをあしらったバッグは、お洒落な女性のマストアイテムとして支持されるようになった。
そんなヴァレンティノ・ガラヴァーニの衣鉢を継ぐ天才として現れたのが、ピエールパオロ・ピッチョーリだ。2008年からクリエイティブ・ディレクターの座につき、伝説的メゾンの第二幕を華やかにそして現代的に繰り広げていく。
これまでにブルネロ クチネリやフェンディにて腕を磨いたピッチョーリは、アクセサリーデザインの達人であり、2010年の秋冬コレクションにて、パンクロックにも通じる四角錐パーツを整列させたロックスタッズをデザイン。メゾンがこれまで育んできたエレガンスに、若々しいシャープなエッジをもたらす新たな要素を作り出したのだ。
以来ロックスタッズはメゾンのアイコンとなり、特にバッグコレクションを飾る重要なモチーフとしてバリエーションを広げていく。ラグジュアリーでありながら、単純な豪華さとは異なる鋭い“トゲ”をもつデザインは、高感度なセレブリティにこそ刺さるもの。ヴァレンティノのバッグが多くのアーティストやファッションモデルから選ばれるのは、ある意味自然現象と言えるのだ。
誰にでも若々しく勢いのある装いを楽しみたいときがある。しかしハードな革製ライダーズでは、ルードに偏ってしまいがちだ。ロックスタッズのバッグであれば、誰でも手軽にエッジを効かせつつ同時に品格あるコーディネイトを楽しむことが可能。適度にロックでしっかりラグジュアリー。この希有なバランスこそ、名品を名品たらしめるゆえんである。