手元に置くことで心躍る逸品がある。それは類い稀なセンスを軸に、厳選の素材を用い丁寧に作られたもの。なかでも長年にわたり、世界から認められてきたブランドの名品に絞ってピックアップ。そのストーリーを深く知ることで、本当のラグジュアリーが見えてくる。

写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登

「どこへ行こう?」次の動きへいざなう鞄

 鞄はなにも語らない。モノを入れて運ぶことが使命である。しかし本当にそれだけか? だとしたら、そんな鞄は凡庸かもしれない。真に優れたアイテムは、思いつきのアイデアを具体化させるほどに想像を掻き立て、所有者を突き動かす。

 たとえば自転車で考えてみてほしい。美しい車体はハンドルを握りたくなるよう触発するし、機能的に回転するホイールやペダルが、まだ見ぬ場所への道行きをアレコレと想像させてやまない。ボッテガ・ヴェネタのバッグは、新たな明日を予感させるという意味で、可能性に満ちた名品なのである。

 ボッテガ・ヴェネタは1966年にイタリアはヴェネト州、ヴィチェンツァにて創業した皮革工房がオリジン。ヴェネト州は古くから革の産地であり、その昔は300を超えるレザーメーカーが存在し、ボッテガ・ヴェネタはその名のとおり「ヴェネトの工房」として出発。

 同州の腕の良い職人を集め、伝統的な手作業による高品質な革製品を打ち出すこの工房は、当初から品質に自信を持ち、「When your own initials are enough(自分のイニシャルだけで十分)」というPRを展開。ブランドロゴに頼らぬ物作りにて、真摯に実績を築いていくのである。

 1980年代にはジャクリーン・ケネディやイラン王妃といったセレブを顧客とし、さらにアンディ・ウォーホルによるブランドキャンペーンを経て、世界に広く知られる存在となっていく。そして2001年にグッチグループ(現ケリンググループ)への加入を契機に、ハイブランドとしての地位を確立。当初のデザイン部門を率いたトーマス・マイヤーは、ボッテガ・ヴェネタの持つ高レベルのクラフツマンシップを最大限に活かすべく、トスカーナ地方に伝わる技法「イントレチャート(革の編み上げ製法)」をフィーチャー。同ブランドの第二章を理想的にスタートさせた。

ボッテガ・ヴェネタをネクストステージに引き上げたクリエイティブディレクターのマチュー・ブレイジー氏 写真=ロイター/アフロ

 現在、デザインを手掛けるマチュー・ブレイジーがクリエイティブディレクターに就任したのは2021年。ラフ シモンズやメゾン マルジェラ等で手腕を磨いた知られざる天才は、メゾンの個性である「ステルス・ウェルス(さり気ない高級感の表現)」を継承するに最適の人物。

 デビューイヤーから数々のアイテム作りに冴えを見せたマチューであるが、ことバッグに関しては、2023年のサマーコレクションに発表した「アンディアーモ」に彼らしいこだわりを添えている。

 柔らかなイントレチャートレザーを駆使し、美観と機能性を両立させたスライド式ストラップを配すなど、ボッテガ・ヴェネタの基本理念である「Craft in motion(動きの中のクラフト)」を再定義するスペックが大きな見どころだ。最高の手仕事により産み出されるだけでなく、生活のあらゆる動きの中で楽しめる心地よさ、利便性、卓越した個性を備えたクラフトアイテムとして完成しているのである。

アンディアーモは2023S/Sコレクションで初登場。アンディアーモ(Andiamo)とは、イタリア語で「さあ行こう」を意味する言葉 写真=Splash/アフロ

 手提げはもちろん、肩掛けや抱え持ちなど自由に持つことができる「アンディアーモ」。さらに持ち運びたいものをすべて収納可能というキャリーオールスタイルも自由を約束するひとつの要素。そう、このバッグがあればどこに赴くのも容易にしてボーダーレス。持ち主は心から行きたい場所を思い描くだけで、ストーリーが動き出す。

ハリウッドの新ホープ! オーストラリアの人気俳優、ジェイコブ・エロルディもアンディアーモ愛用者のひとり 写真=Backgrid/アフロ