文=細谷美香

96年の『ツイスター』の続編

 猛暑が続く今年の夏、涼しい映画館で別世界へとひたすら没入するのが休日の過ごし方の最適解ではないだろうか。しかも劇場で観るからこその臨場感を味わうならば、『ツイスターズ』をおすすめしたい。96年の『ツイスター』のリブート作品ではあるが、予習せずとも楽しめる見応えたっぷりのアクション・アドベンチャーになっている。

 主人公は、学生時代にともに竜巻を追いかけていた最中に、仲間たちを亡くした過去を持つケイト。気象学者となった彼女は当時の友人に依頼され、竜巻の調査をするために故郷のオクラホマへ向かう。そこで出会ったのは、竜巻に近づいて動画を配信するインフルエンサーのタイラーだった。

 前作にも登場した『オズの魔法使』に由来する“ドロシー”という装置を駆使するシーンもあり、冒頭でケイトたちが体験する竜巻の映像からすでに、この自然現象の並外れた恐ろしさと迫力が伝わってくる。その後も種類の違う竜巻が襲来する度に、身体ごと巻き込まれるような感覚を味わえることが、この映画の大きな魅力だろう。

 竜巻チェイサーたちは風や雲の動きを読みながら激しく車を走らせて竜巻を追いかけ、正体に迫っていく。目的が違うチームが“竜巻破壊計画”のためにともに戦うことになる展開にも、王道の娯楽映画の興奮が詰まっている。

 トラウマを抱えながらも人々を救うために調査チームに加わったケイトと、好奇心と欲望のままに突っ走るタイラー。対照的なふたりだが、幼い頃から人間がコントロールすることのできない自然の怖さと美しさに神秘を感じている、“竜巻おたく”という共通点がある。竜巻を手なずけたい女と、乗りこなしたい男。ふたりの間にはほのかなロマンスも感じられるが、何よりも竜巻についての情熱と知識を共有していくことで成立していく、フェアな関係が気持ちいい。

 監督はアーカンソーを舞台に韓国系移民家族の物語を描き、脚光を浴びたリー・アイザック・チョン。前作とは規模が違う作品だが、土地の空気を繊細かつダイナミックに伝える映像に、作家性が宿っているといえるかもしれない。夜のプールや『フランケンシュタイン』上映中の映画館など、竜巻に襲われるシチュエーションも効果的だ。

 聡明なケイトを演じたのはドラマ『ノーマル・ピープル』、『ザリガニの鳴くところ』のデイジー・エドガー=ジョーンズ。典型的なカウボーイで命知らずのタイラーを演じたのは、『トップガン マーヴェリック』『恋するプリテンダー』『ヒットマン』と話題作への出演が続く俳優、グレン・パウエル。軽妙さとたくましさを感じさせる彼の存在が、この映画のエンタメ度をさらに高めている。