車内のオープンキッチンで調理

 では実際に「52席の至福」のようすをレポートしてみよう。今回乗車するのは「ディナーコース」。乗車口の前にはホームに赤い絨毯が敷かれており、普段の列車とは違う高級感が味わえ、乗車する前から旅への期待が高まってならない。車内に足を踏み入れるとデッキと客席との間が秩父銘仙で織られた矢絣ののれんで仕切られており、これが特別な車両なのだなと感じさせてくれる。

柿渋和紙を貼りつけたアーチ形の天井パネルが印象的な2号車

 4両編成の車両のうち客席は2号車と4号車で、インテリアには渓谷などの自然がモチーフとなり、2号車は渋皮和紙、4号車は西川材が天井に使用されている。そして3号車がライブ感あふれる自慢のオープンキッチンスペースだ。車内で食事を楽しめる列車が多いといっても、そのほとんどが出来上がった食事を途中駅などから搬入するケータリングによるものであり、このように実際に車内で調理したり盛り付けたりする列車は貴重である。1号車はパネル展示や結婚式などもおこなえる多目的スペースとなっている。

1両がまるごとキッチンとなっている3号車。調理や盛り付けのようすがリアルタイムで拝見できる

 あらためて驚くのは、この車両は新しく造られたものではなく、西武秩父線などを走っている通常の通勤型車両をリメイクしたものだということだ。以前の車内の面影はどこにもないほど、客席はまさに豪華なレストランそのものである。

 列車がゆっくりと走り始めると、まずはウェルカムドリンクとしてスパークリングワインがグラスに注がれる。さぁ、ここから日常を忘れたディナークルーズのスタートだ。その後はタイミングを見計らいながら料理が次々と運ばれてくる。

コース料理には海や山の幸、そして地元の食材がバランスよくまとめられている

 車内ではソフトドリンクが無料なのに対しアルコール類は有料だが、種類は豊富。お酒をたしなむ人へのおすすめは、秩父の蒸留所で作られ世界から注目されているイチローズモルトの稀少なウイスキーで、なんと「52席の至福」プライベートボトルもあるのだとか。食事が落ち着いた頃になると、楽器の生演奏が始まった。

食事が一段落すると生演奏の音色が車内をめぐる

 都会の喧噪から解き放たれ、心地よい揺れとともに流れる夜景を眺めながら、列車ならではの空間でおいしい料理やホスピタリティを心ゆくまで堪能できる。これこそ「52席の至福」最大の魅力であり人気の秘密なのではないだろうか。