サステナビリティビジネスの象徴
もうひとつ重要なことは、電気自動車はある意味でサステナブルなビジネスの象徴ともいえる点にある。
たとえばシリーズ・スポンサーのひとつであるジュリアスベアは富裕層を対象としたスイスのプライベートバンクだが、私の知人は同銀行から招待されてフォーミュラEを観戦するようになったという。そこでは、同じように招待された投資家が多数集まり、互いに知己を得るなかで様々な情報交換を行ったり、新たなビジネスの可能性を探ることがあったそうだ。つまり、彼らは電気自動車が戦うフォーミュラEにサステナブルなビジネスの将来像を見いだし、同じ志を持つもの同士が互いに接するなかでビジネス展開を図ろうとしたと考えられる。
いっぽうの東京都は、2019年に「ゼロエミッション東京戦略」を発表。こうした政策がカーボンニュートラルを目指すフォーミュラEの理念と一致したことから、今回の初開催に至ったといえる。
同様のことは、フォーミュラEに参戦する自動車メーカーにしても、各種サプライヤーやジュリアスベア以外のスポンサーについてもあてはまる。つまり、カーボンニュートラルをキーワードにして集まった企業や組織、そして国や自治体が、自分たちの活動を加速させるためにフォーミュラEを役立てているとも捉えられるのだ。そう考えていくと、旧来からのモータースポーツ・ファンがフォーミュラEにどんな印象を持ったかは、実にとるにたらないできごとだったといえなくもない。
現在のフォーミュラE事情
現在フォーミュラEに参戦している自動車メーカー(ブランド)は、ジャガー、ポルシェ、日産、DS、マセラティ、ERT、マヒンドラの計7社。このうち、ジャガー(エンビジョン)、ポルシェ(アンドレッティ)、マヒンドラ(ABTクプラ)の4社はプライベートチームにもマシンを供給しているため、自動車メーカー系チームとプライベートチームのあわせて11チームがフォーミュラEに参戦している(カッコ内は各メーカーがマシンを供給しているチーム名)。なお、かつてはルノー、アウディ、BMW、メルセデスベンツといった自動車メーカーもフォーミュラEに参戦していた。
ちなみに、昨シーズンはジャガー製マシンを用いるエンビジョン・レーシングがチームタイトルを獲得。本家のジャガーが2位で、ポルシェを走らせるアンドレッティが3位。そしてアンドレッティの本家にあたるポルシェが4位という、プライベートチームと自動車メーカー系チームの順位が逆転する珍しい1年となった。
いっぽう、ドライバー・タイトルを勝ち取ったのはアンドレッティのジェイク・デニス(英)で、2位はエンビジョンのニック・キャシディ(ニュージランド。今季はジャガーに移籍)、3位はジャガーのミッチ・エヴァンス(ニュージーランド)だった。
そして今季は第5戦東京大会を終えた段階で、チーム・タイトルは1位:ジャガー、2位:ポルシェ、3位:日産の順で、ドライバー・タイトルは1位:キャシディ(ジャガー)、2位:パスカル・ウェーレイン(ポルシェ)、3位:オリバー・ローランド(日産)の順となっている。
各自動車メーカーの思惑通り、フォーミュラEは電気自動車普及の起爆剤となるのか、否か。今後の展開を注視したい。