スケーターの未来を広げたい

 そして鈴木は高橋から振り付けの依頼を受けたとき共感した点の1つを語っている。

「スケーターさんの未来を広げたい、若手の人がどんどん育っていくように、という思いで企画していることにすごく賛同しました」

 公演には大学生や高校生らも「アンサンブルスケーター」として数多く出演する。アイスショーに出演するのは初めてというスケーターも多い。

 その1人に大島光翔がいる。大島は今、大学3年生。卒業後を考える時期でもある。

「自分はスケートという競技を幼い頃からやってきたからこそ、進路にすごい迷うところがあって。そんな中でアイスショーの機会をいただくことができて、それもただのアイスショーではなくいちばん自分が尊敬する高橋大輔さんのショーということで、進路に迷っていた自分というか、自分の気持ちを見極めさせてくれるような、そういったものになるのかなって実感しています。まだリハーサル3日目なんですけど、滑れば滑るほど自分の気持ち、今までなかった気持ちに気づくことができたり、滑るのが本当に好きなんだなっていうのにあらためて気づかされたきっかけになったので、リハ含め、自分の人生にとって大きな10日間になるのかなって思います」

 同じく大学生の木科雄登は言う。

「これまでの長いスケート人生の中でやってきたことは無駄じゃなかったのかなっていう気持ちになって、とてもうれしかったです。おそらく何十年経っても思い出すような、そういった濃い時間になるような予感がもう今からしているので、この残りの本番までの時間をしっかりと大切にしながら、いい思い出にしていきたいなって思っています」

 三宅咲綺は、高橋が学生を集めてアイスショーをやりたいとSNSで語ったとき、「自分に声がかかればいいなと思っていました」。願ったとおり、オファーが舞い込んだ。

「(コーチの)中野(園子)先生が『ぜひ出ておいで』って背中を押してくださいました。就職とかいろいろあると思うんですけど、スケートを続けてきたからにはスケートの方でアイスショーやプロに転向していきたいなと思っていたので、この機会をいただけて光栄です。このショーを機に他のアイスショーとかに出てみたいってなったら、まだ競技を続けるかもしれませんし、すごいいい機会をいただけたなっていう思いです」

 奥野友莉菜は16歳。ジュニアのカテゴリーにいる選手だ。

「自分のやったことのないような踊りのプログラムだったり、新しい振り付けもすごく多くて。緊張というか不安ではあったんですけど、高橋大輔さんや村元哉中さんに1対1で教えていただいて、やっていて楽しいですし、何時間氷に乗っていても動いていても、体力的にはきついんですけど、すごく楽しいです」

「滑走屋に出演させてもらっている中で最年少なので、これから現役生活もまだ自分が一番長いと思うので、それをしっかり競技でも生かせるように、いろんなものをすごく吸収して、うまく活用できたらなと思ってます」

 立ち位置はそれぞれにあっても、共通するのは「滑走屋」に出演できる喜びであり、やり抜きたいという意気込みであり、出演することが自身の大きな糧になるという手ごたえだ。高橋の目指していた、スケーターたちの貴重な機会として、晴れの舞台として「滑走屋」はある。

 

アイスショーの新たな幕開け

「滑走屋」の企画を立ち上げたとき、高橋は言った。

「アイスショーの、新たな幕開けになればよいなと思っています」

 演者であるのにとどまらず、プロデューサーとして準備にあたってきた。

「僕もそういうのにかかわってきてなかったので、『ここも決めなきゃいけないの』『あ、こんなにもいろいろあるんだな』っていう発見もあって。ほんとうに楽しい部分もあったり、しんどいんですけど、やっぱり新しいことを知ることもできるし、それがどんどん形になっていく姿だったり見えてくると、やっぱり面白いなって感じてます」

 その求心力にひかれるように、スケーターやスタッフは目指すべきところを共有し、進んできた。

 フィギュアスケートの新たな魅力を伝えることで、より多くの人々が楽しめる空間を。

 彼らの思いが結実する舞台は2月10日、開幕する。