ご利益の第一は眼病平癒

 さて、では実際に鎌倉権五郎神社に行ってみよう。江ノ電なら長谷駅か極楽寺駅。天気がよければまず海辺の道に出て、ぶらぶら散歩してみるのもよい。そこから再び江ノ電の線路を目指して歩く。このあたりには昔ながらの住宅も多く、古きよき鎌倉の風情を満喫できる。茅ヶ崎や鎌倉にゆかりの深いミュージシャン桑田佳祐さんも御霊神社を含むこのエリアがお気に入りで、楽曲の歌詞にも使われているそうだ。

 やがて見えてくる古めかしい木製の看板と「力餅家」と書かれた暖簾。江戸時代から300年以上続く老舗の和菓子屋だ。建物は終戦直後に急ごしらえで建てたバラックをそのまま使っているというから驚く。こちらの名物はスーパーヒーローの名にちなんだ権五郎力餅。御霊神社の境内では、勇者権五郎景正にあやかろうした武士たちが力くらべを行い、その時使われた二つの力石が今も残っている。当時その力石に供えた餅が権五郎力餅としてこの店に伝わったということだ。

 たっぷりのあんこに包まれたやわらかいお餅。何はともあれ、これはあったらすぐ買わなければいけない。お参り後に買おうなどと思っていると売り切れていることが多いのだ。

 そこからほんの少し歩くと御霊神社の鳥居が見えてくる。少し待っていると、手前の線路を江ノ電が走る、鎌倉でも屈指の魅力的な光景を見ることもできる。鳥居と江ノ電を一緒に撮影できるこの瞬間のために待機する観光客も多く、とりわけアジサイの季節は人また人でごった返す。鳥居をくぐって境内に入ってからも鳥居の向こうを走る江ノ電が見られるので、シャッターチャンスを逃さないように。

鎌倉御霊神社 写真:acdesign/イメージマート

 境内はさほど広くはないが、静けさに満ちた心癒される空間である。まずは本殿で権五郎様にお参りしよう。武勇をもって知られる人物だが、敵に片目を射抜かれたがそのまま闘い続けたというエピソードがとりわけ有名で、ご利益の第一は眼病平癒である。

 しかしもちろん、心願成就などのご利益も強大だ。稲荷神社、秋葉神社、御嶽神社、金比羅社など摂社も数々ある。鎌倉七福神の福禄寿も祀られており、長寿のご利益までいただける。9月18日の例大祭で行われる鎌倉の無形民俗文化財、「面掛行列」もよく知られている。男性のみがユーモラスなお面をつけて練り歩く楽しい行列で、おかめさんのお面をかぶった人のおなかは膨らんでいる。女性関係も華々しかったとされる源頼朝のご乱行に端を発すると言われる祭だからだろう。

面掛行列 写真=フォトライブラリー

 最後にもうひとつ、ぜひともお伝えしておきたいことがある。こちらの神社は石の神仏像マニアにとっても聖地だ。そんなマニアがどこにいるのかと思われるだろうが、それはわたしだ。わたしは石で造られた神様や仏様の像を見たり写真を撮ったりするのが好きで本まで書いているのだが、この神社には、その一種である庚申塔が十二基も並んでいる。

 庚申塔とは何かという話を始めると長くなるので、ここではごく簡単に説明しよう。江戸時代から昭和30年代くらいまで、広く庶民に親しまれた庚申信仰というものがある。その一環で、集落ごとに神仏や文字などさまざまなものを彫った石塔を建立する風習があり、それを庚申塔と呼ぶ。

 庚申信仰は関東一円で盛んで、神奈川県でもあちこちで庚申塔群が見られる。鎌倉にも多いが、特にこちらのものは彫り物の種類がバリエーションに富み、見ごたえがある。このように、神社の境内では片隅にある石塔や石像をよく見ると、神道の本道とは違う庶民信仰の名残が見つかることがある。そんな発見も神社散歩の楽しみのひとつだ。