本企画は「大人になってもワクワクしたい」「新しいことを知りたい」がコンセプト。

 次回の取材先を捜す松宮。ふと、第1回目「JAL工場見学」の取材中に「タイヤはブリヂストンを使っている」とガイドの方から聞いたのを思い出す。調べてみると、「株式会社ブリヂストン(以下、ブリヂストン)」が「Bridgestone Innovation Gallery(ブリヂストン イノベーション ギャラリー)」で無料のガイドツアーを開催しているようだ。

 「ブリヂストン」といえば、車のタイヤが思い浮かぶ。タイヤ以外の製品も作っているのだろうか。これは気になる!

 と、いうことで問い合わせてみると取材OK。ガイドツアーに参加すべく、東京都小平市にある「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」へ!

世界の拠点「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」

 自宅から近いJR渋谷駅から山手線&西武新宿線に乗り継ぎ、50分ほど。「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」の最寄り駅である小川駅へ。初めて降りたので「何があるんだろう?」と、構内の地図をチェック。周囲には小中高と学校が多いようだ。

 小川駅東口から徒歩5分ほどで「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」に到着!

​タイヤが気になる!「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」外観

 今日のガイドは「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」初代館長の森英信さん。
森さんは1991年に入社し、販売、マーケティング、物流、サプライチェーンを担当した。チリ・オーストラリア・インドなど海外でも勤務経験があるという。

森さん&鉱山用の超巨大タイヤ。なんと、タイヤの直径は402.2m、幅145.9m、重量5,223kgで世界最大級!森さんと比較すると、タイヤの大きさがわかる

 ふと、「どうしてギャラリーは小平市にあるのか」と思い、質問する松宮。森さんによると、もともと「ブリヂストン」は創業地の福岡・久留米に本社と工場があったそうだが、1937年に本社を久留米から東京に移転。その後、1960年に東京工場を、1962年に技術センターを設立した。

1960年第二期工事着工前の東京工場(ブリヂストン提供)

 「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」は「Bridgestone Innovation Park(ブリヂストン イノベーション パーク)」内にある。同パークは「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」でブリヂストンの歩みやDNA、事業活動、さらに未来に向けた活動を伝え、「B-Innovation(ビーイノベーション)」で社内外の交流を促進してアイデアを育む。テストコースや解析設備を備えた「B-Mobility(ビー モビリティ)」で実際に試すのを目的としている。

社内外の交流を促進し、新たな価値を共に創造する共創へと進化させて行く複合施設「ブリヂストン イノベーション パーク」。(写真右)「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」(中央)「B-Innovation(ビーイノベーション)」(左)「B-Mobility(ビー モビリティ)」(ブリヂストン提供)

 実は、2001年~2019年までは同じ場所に「ブリヂストンToday」があった。コンセプトは通常の企業ミュージアムと同じく「歴史にフォーカスしたものだった」と森さん。

 2020年11月にオープンした「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」は歴史や過去だけでなく、将来の展望も伝える施設だ。一般の人々にも「ブリヂストンを広く知ってもらい、ファンを増やす」のがコンセプトで無料のガイドツアーを開催している。予約はWebか電話で行う。時間は約60分でガイドはスタッフが行う。2022年の見学者数は1万3,000人ほど。親子が多い。

 子供は「クイズでGO」というプリントを無料でもらえるため、楽しみながら学べるのが魅力。館内を見学し、答えをすべて埋めるとお土産(何かはお楽しみに!)がもらえるので、親子で遊びに行く人はぜひチャレンジを!

スタイリッシュでこだわりが満載!「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」へ

館内に入ると、天井が高く、開放的な空間が出迎えてくれる。エントランスの壁面に施したドットアートから日差しが差し込み、明るい雰囲気だ

 ドットアートは壁面に穴を開け、原寸大の車(11種)を表現しているという。まるで美術館のようにスタイリッシュでおしゃれ。強いこだわりを感じる。

 「ブリヂストン イノベーション ギャラリー」は4つのエリア「WHO WE ARE(挑戦の歩み)」「WHAT WE OFFER(モビリティ社会を支える)」「HOW WE CREATE(創造と共創)」「WHERE WE GO (新たなチャプターへ)」に分かれている。

「WHO WE ARE」は創業時の歴史や取り組みを伝えるエリア

 「株式会社ブリヂストン」の創業者・石橋正二郎氏は1889年福岡・久留米に生まれた。1906年3月に久留米商業学校を卒業後、17歳の時に兄と家業の仕立物屋を継いだ。その後、足袋を専業に販売。すべりにくいゴム底が付いた地下足袋を考案し、大ヒットする。しかし、「今後は車が普及し、タイヤが必要になるはず」と思った石橋氏。当時は英米の資本や技術に頼らなければ、タイヤを製造できなかった。だが「日本の資本と技術でタイヤを作りたい」と、1931年に生誕地である久留米で創業した。

 社名は世界進出を見据えて姓の石橋(ストーンブリッジ)を英訳し、入れ替えて語呂をよくしたもの。ちなみに、「ヂ」を使用しているのは1931年当時の表記にならっているため。1931年といえば、昭和6年。その時代に世界を視野に入れているのがすごい!

タイヤ第一号の複製とクサビ形のキーストーンにBRIDGESTONEの略号「BS」と描かれた創業当時の商標

 いや、そもそも足袋にゴム底を付けたり、1935年には「ゴルフボールを販売していた」というから、もともと「先見の明」がありすぎる!

 「BSはベスト・サービスの略号に通じる」と石橋氏は語っていたそう。当時制定された社是は「最高の品質で社会に貢献」。森さんによると、「永続する事業とは、社会に貢献する事業である」と石橋氏は言っていたそうだ。

 「ブリヂストン」は石橋氏の姓を英訳して入れ替えたのは有名だが、社名や商標にはもっといろいろな想いが込められているのを知り、驚いた!

1997年には、公式のタイヤサプライヤーとしてフォーミュラ1(F1)にも参戦。世界最高峰の舞台であるF1では、タイヤに関してかなり細かい規定があるため、選ばれるのはすごいこと。ブリヂストンのタイヤが「世界に通用する」と証明された出来事だ。展示されている車体は実際のタイヤ開発に使用されたもの。赤と白のカラーリングがカッコいい!

 東京オリンピック・パラリンピック(2021年)やソーラーカーレース(2023年)のパートナーを務めるなど、直近の業績をあらためて見学し、次のエリアへ!

初めて見る色のタイヤも!「WHAT WE OFFER(モビリティ社会を支える)」

 「WHAT WE OFFER(モビリティ社会を支える)」の「TIRE PARK」に向かう。すると、全身がタイヤ(ゴム)のにおいに包まれる。モノレールや航空機用など、16本のさまざまなタイヤがずらっと並び、圧巻だ。

「TIRE PARK」ではモノレールや航空機用など、16本のさまざまなタイヤを展示している。その中で一番大きいのは航空機のタイヤ

 以前、「大人の社会見学第1回」で取材したJALが「ブリヂストン」のタイヤを使用している件について森さんに質問する。すると、「航空業界では安全性がもっとも大切」「JAL様からいただいた機体などのデータを駆使し、事前にタイヤの交換時を計算している」と回答。他社にデータを渡すのはかなりレア。相互の信頼により成り立っている関係性といえる。

 と、ここで白いタイヤを発見!

 「何用のタイヤか」と森さんに尋ねると、「食品会社のフォークリフト用」と教えてくれる。「(食品)工場内の床にタイヤの跡がつかないようにしたい」と依頼があったそうだ。タイヤに関して「いろいろな依頼があるんだな」と知り、興味深い。

 「タイヤができるまで(製造工程)」の展示へ向かう。すると「実は、タイヤはまるごと1つを作るのではないんですよ」と森さん。

 ええっ!一体どういうこと?!

 タイヤは部品をバラバラに作り、「工場でプラモデルのように組み立てる」と森さんが解説してくれる。

 タイヤってバラバラの部品を組み立てるのか……。衝撃!!!

 ほかには、ゴムによって「伸びる・伸びない」ものがあるのを体感できるコーナーもある。「弾む・弾まない」ゴムボールもあり、投げて比較できるのが楽しい。

実際に引っぱってみると「ゴムにもいろいろなものがある」とわかる

 特に小学生に人気で「次に行くよ!と言っても、ずっと投げています(笑)」と森さん。実際に引っぱったり投げたりして「いろいろなゴムがある」のを一度に体感できるのは、大人にとってもおもしろい。

 ゴムには「大人をも魅了する何か」がある。

黒い自転車は東京オリンピック(2021年)で自転車競技(トラック)日本代表が使用した「アンカー」。カーボン製で重さはわずか6.8kg!自転車競技の本場はヨーロッパだ。そのため、従来優れた性能の自転車はヨーロッパに輸出されてしまい、日本には残らなかった。しかし「日本の自転車で勝ちたい」と開発し、提供したという
映像を見る「デジタルコース」と最新の製品を展示した「リアルコース」に分かれている「WHERE WE GO (新たなチャプターへ)」。実は技術センターへの通路でもあるため、ビジネスで訪れる来館者は「ブリヂストン」が描く未来を体感しながら向かえるのだ

 最後に「ブリヂストン」のタイヤ以外の製品を見学する。「ツアーで一番人気のスポットに行きましょう」と言う森さんについて行く。

一番人気のスポットが登場

 階段を降りて地下へ。段々と暗くなる。「ここは一体?」と思っていると……

「免震コーナーですよ」と森さん。ギャラリーの地下には免震ゴムが設置されているんだとか!(写真右)。免震ゴムには、鉄板とゴムを交互に入れたものが61本入っているそうだ

 中央の展示ではボタンを押すと、水入りのコップを屋上に設置した建物が揺れて「免震あり・なし」どちらがこぼれないか実験できる。もちろん「免震あり」の方が揺れは少なく、水はこぼれないが、実際にぜひ体験してほしい!

 森さんによると、免震ゴムは「地震の揺れをゆらりと受け流している」そうだ。

 ゴムを免震に使用しているとは、ギャラリーを見学して初めて知った!
つくづくゴムには「タイヤ以外にもいろいろな用途があるんだな」と思う。

タイヤ以外のユニークなゴム製品が登場

企画展では「月を走るタイヤ展」を開催中。展示は数カ月で変わる。「ブリヂストン」は2019年よりJAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携し、タイヤの研究・開発を行っている
月面を探査するローバ専用のタイヤ。素材はゴムではなく、金属ウールを使用している。月面とまったく同じ状況でテストを行うのは難しいため「鳥取砂丘で試走した」そう

 ふと気になるものを発見!あれは一体?!

 これはイルカ?「ブリヂストン」との関係は?不思議に思い、森さんに尋ねると、「ブリヂストンがイルカの人工尾びれを作っている」と解説してくれる。

なるほど!イルカの人工尾びれはゴム製なのか。「ブリヂストン」製品の幅広さに驚く

 2020年11月に「ブリヂストン」は「沖縄美ら海水族館」と連携。イルカショーに20年以上出演していたミナミバンドウイルカ(愛称サミ)の人工尾びれを作るプロジェクトが発足した。サミは打撲により尾びれを損傷。感染症によって壊死してしまったとのこと。ミナミバンドウイルカは尾びれがないとうまく泳げない。そのため、健康面や仲間から孤立してしまう社会面の懸念があった。

「ブリヂストン」は、2004年に病気で尾びれをなくした同水族館のバンドウイルカ・フジの人工尾びれを作った実績から声がかかったという。手前はサミ、奥がフジの人工尾びれ。各個体に合わせて人工尾びれを作っているのがわかる

 ミナミバンドウイルカのサミは人工尾びれを装着してリハビリを継続的に行い、現在は仲間と一緒に泳いで触れ合っているという。

 あらためて「ゴムって思った以上に幅広い製品に使用されているんだな」と、人工尾びれを見つめる松宮。すると「もっと、いろいろな人に見てもらいたいんです」「何かアイデアはありませんか」と森さんに質問される。取材中、逆に質問されること、しかも「改善点」を聞かれるのは、初めて。その姿勢がとても印象に残った。

 足袋から始まり、自動車や航空機のタイヤ、さらに免震ゴムやイルカの人工尾びれまで広がった「ブリヂストン」。ギャラリーでは「ブリヂストンの進化」を知ることができる。

 また、プラモデルのように組み立てられて完成する「タイヤが作られる工程」にも驚くはずだ。多様なタイヤを一度に見比べたり、ゴムを引っぱったり投げたりと体感しながら学べるのは、同ギャラリーならでは。大人はビジネス視点で、子供はタイヤやゴム製品についてなど、それぞれ楽しめるのでおすすめ!