文=酒井政人
プロ転向後の変化
東京五輪の女子1500mで8位入賞を果たすなど世界大会に滅法強い田中希実(New Balance)が3度目の世界陸上に向かう。今季からニューバランスと契約してプロに転向。シーズン序盤は苦しいレースが続いたが、6月上旬の日本選手権で1500mと5000mの2冠を達成。ブダペスト世界陸上ではこの2種目に出場する。
この春、「自分のこうしたいという思い」を求めて、新たな競技人生をスタートさせた田中。8月1日の「ニューバランス契約選手 田中希実 合同取材会」では自身の変化について語った。まずは父・健智コーチとの関係性だ。
「これまでは自分たちで抱え込んでしまう部分が多かったと思います。プロになり、歩み寄るよりも、ぶつかり合うことが増えたんですけど、気持ちの余裕を持って、キャッチボールをやりやすくしていきたいなと思います」
昨季までは父娘マン・ツー・マンでの練習が中心で、「葛藤しながらきついメニューをこなすことが多かった」が、今季は様々なグループの練習に参加。普段の練習は、「そこまで追い込まずに、自分の力を確かめながらのメニュー」が増えたという。逆に海外での練習は「鍛錬」ととらえて追い込んだようだ。なかでも日本選手権後に敢行した約2週間のケニア合宿が大きかったという。〝マラソンの聖地〟と呼ばれる標高2400mのイテンで現地の選手たちと走り込んだ。
「昨年はケニア人がコーチをしているキャンプで、典型的な大集団で練習する感じでしたが、今年は欧州のコーチがいる少数精鋭のチームに行きました。すべてのメニューをこなすとハーフマラソンに向けたような練習になるので、私の目指したい練習になるように、父がうまく考えて間引き方を決めてくれたんです」
田中の話では、ケニアは日本と異なり、トラックをメインにする選手は少ないという。そのため今回のケニア合宿ではマラソン選手やロードランナーの練習に参加。1kmを10何本というようなスタミナ系の練習が多かったようだ。そこから健智コーチが田中仕様のメニューにアレンジしたという。
「路面が不整地というのは日本と違いますし、ペース設定も高い。世界陸上の決勝で最後までつけるのかというのを考えながら、緊張感のあるなかで(ケニア勢の走りの感覚を)カラダで覚えることができたかな。しんどくて離れてしまう場面もあったんですけど、精神的にも強くなったと思います」