文=酒井政人 

相模原ギオンスタジアム 写真=PIXTA

 初夏の〝ナイター決戦〟は今年も熱かった。6月17日に相模原ギオンスタジアムで行われた全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会。エントリーした大学のなかで10000m8人の合計タイム上位20校が出場して、「7枚」の伊勢路キップを争った。

 

1~3組は城西大と大東大が強かった

 1組は強烈なラストスパートを放った林晃耀(城西大3)が30分03秒40で1着。2組は昨年同様、ピーター・ワンジル(大東大3)が独走して、29分00秒50でトップを飾った。

 3組は高槻芳照(東農大4)が攻め込み、山中博生(帝京大3)、山本羅生(立大3)とともに抜け出した。レースは終盤に急浮上した野村颯斗(城西大4)が29分40秒85で制すと、高槻も踏ん張り、29分43秒47で2着に入った。

 3組終了時の順位はトップが大東大で、2位城西大、3位東海大、4位帝京大。8位以降のチームを考えると、ここまでは通過が濃厚な状況だった。一方、5位中央学大と12位東農大は1分06秒差。8校がボーダー付近でひしめきあっていた。

 そのなかで東農大の選手たちは〝大逆転〟を信じていた。3組を走った高槻は、「自分がタイムを稼ぐ約束をしていたので、勝ち切れなくて申し訳ない気持ちです。その分、4組のふたりに負担をかけちゃうんですけど、やってくれると思います。前田ですか? 別格ですね。自分と並木とは、ちょっと持っているものが違うかなと感じます」と口にしていた。

 高槻と並木寧音(4年)は関東学生連合で箱根駅伝を経験しており、10000mは28分10秒台のタイムを持つ。学生のなかでもトップクラスの実力だが、昨年のインターハイ5000mで日本人トップに輝いた東農大のスーパールーキーは噂以上だった。

 

東農大のスーパールーキーが衝撃の快走

 前田和摩(東農大1)は寮で同部屋でもある先輩・並木から、「自分たちが力を出せたら全然いけると思うから頑張ろう」と声をかけられると、迷うことなくトップ集団でレースを進める。9人のケニア人留学生が出場した最終4組は5000mを14分07秒で通過した。

 日本人選手では前田と並木、それから吉田礼志(中央学大3)、山本唯翔(城西大4)、片川祐大(亜大3)が食らいついた。しかし、6000mまでの1000mが2分44秒まで引きあがると、先輩たちは苦しくなる。そのなかで唯一、1年生だけが悠々と駆け抜けた。

 前田の快走は止まらない。ケニア人選手の数も削られていき、4人がラスト勝負に入っていく。「潰れてもいいから勝負しよう」と残り450m付近でアタック。前田がトップを奪うと、スタジアムが沸騰した。アモス・ベット(東京国際大1)、ジェームス・ムトゥク(山梨学大2)に逆転を許したとはいえ、前田は日本人トップの3着でゴールに飛び込んだ。

 筆者は全日本選考会を2001年から取材しているが、今回の前田は過去の日本人選手のなかで〝ナンバー1〟の快走だったと思っている。

 関東学連の選考会が現在の形式となった1998年以降、1年生が日本人トップタイムを出したのは報徳学園高の先輩・竹澤健介(早大/05年)以来2人目。しかも暑さが残るなか、初めての10000mで刻んだタイムも素晴らしかった。28分03秒51はU20日本歴代2位。潰滝大記(中央学大)が2015年にマークした全日本選考会の日本人最高タイム(28分31秒84)を大幅に塗り替えたのだ。

 記録は気象条件やレース展開で変わってくるが、7人のケニア人留学生に先着した実力は本物だ。5000mで13分16秒85の自己ベストを持つベットと4秒しか違わなかった一方で、日本人2位(7着)の石原翔太郎(東海大4)には34秒もの大差をつけた。

「どれくらいで走れるかわからなかったんですけど、28分40秒切りをひとつの目標にしていました。まさかここまで出てるとは思っていなかった。今までやってきたことがちゃんと100%出せたので、自分のなかで100点満点です」

 本人はタイムに驚いていたが、前田は間違いなく世界を狙う〝学生長距離界のエース〟になっていく能力があるだろう。スーパールーキーの快走で東農大は大逆転に成功。14年ぶりとなる伊勢路を決めて、主将・高槻は「全日本はめちゃくちゃ楽しみです!」と声を弾ませた。

 東農大・小指徹監督は、「前田は実力があるのはわかっていましたけど、私の想定以上に走りましたね」と話すと、「箱根駅伝の予選会も突破するしかありません。できれば日本人ワン・ツー・スリーを取りたいと僕は思っているんです。前田は日本人トップで行くかもしれないですね」と10月14日の〝立川決戦〟でも強さを見せつけるつもりでいる。

 

中央学大はエースに異変

 笑うチームがあれば、泣くチームもある。今回は中央学大に波乱があった。3組終了時点で5位につけており、最終組も順調にレースを進めていた。しかし、残り3周くらいから、エース吉田礼志(3年)の走りがおかしくなる。

 フラフラした動きになり、残り1周で倒れ込んだのだ。起き上がり、どうにか29分15秒ほどでゴールラインに〝到達〟したように見えた。しかし、何度もトラックの内側に入り込んだため、「失格」となり、チームは11年連続出場を逃した。残酷な結末となったが、それだけ厳しいレースだったといえるだろう。

 総合成績は城西大がトップで、大東大、東海大、東京国際大、東農大、帝京大、国士大の順で通過。8位は立大で初出場まで14秒差だった。通過が有力視されていた神奈川大と明大は9位と10位に沈んだ。

 天国と地獄が交錯した伊勢路をめぐる戦いは終わったが、学生ランナーたちの旅路は続く。今後は7月のホクレン・ディタンスチャレンジなどでトラックのタイムを狙い、駅伝シーズンを見据えて夏合宿に突入する。