ケニア合宿で培った新感覚

2023年7月12日、アジア選手権、女子1500mで優勝した田中 写真=アフロ

 ケニアでは早朝にポイント練習があるため、生活スタイルは日本とずいぶん異なる。田中は朝にメインの練習を終わらせると、午後4時ぐらいまでは読書や昼寝をしてゆっくりとホテルで過ごしたという。その後、軽い練習をこなして、夕食をとるという日々だった。

「日本では走る以外の時も常に何か考えているんですけど、ケニアではオフの時間が長いので、頭を空っぽにできました。今まではグウタラしていたらダメだという考えがあったんですが、プロは身体が資本。とにかく休ませることが必要です。眠いときは眠ることを優先しています。さぼっているんじゃなくて、それも仕事だと考えるようになったら楽になりましたし、きつい練習にも逃げずに向かっていけるようになりました」

 ケニアから帰国後は体調を崩したため、田中は予定していた7月1日のホクレン・ディスタンスチャレンジ士別大会の出場を見送ろうと考えていたという。しかし、健智コーチは逆の意見だった。

「胃腸炎になり絶不調だったので、1500mに出場しても4分30秒くらいかかるかもしれないし、その後、予定していたフィンランドのレースも好走できるイメージがなかったんです。でも父は行ってから考えることもできる、と。きつかったけどホクレンに出場したことで、練習より走れて、フィンランドに行く意欲につながったんです。父がそう考えるに至った根拠があるはずなので、私にベストな選択を示してくれているのかなと思います」

 田中はホクレン士別大会1500mを4分12秒75で乗り切ると、その後は快進撃が待っていた。7月8日のオウル・フィンランド5000mを日本歴代3位の14分53秒60で優勝。5日後のアジア選手権1500mを4分06秒75のシーズンベストで走破して、後続を6秒以上も引き離した。

 

1500m決勝の約14時間後に5000m予選の過酷日程

 ブダペスト世界陸上は1500mと5000mに出場する田中。下記がレーススケジュールになる。※( )は日本時間。

 1500mは19日13時15分(19日20時15分)に予選、20日17時05分(21日0時05分)に準決勝、22日21時31分(23日4時31分)に決勝。5000mは23日11時10分(23日18時10分)に予選、26日20時50分(27日3時50分)に決勝が行われる。

「1500mはやってみないとわからないので、怖い部分がある」という田中だが、自信もつけている。「今回はプラス通過がないので、予選から決勝のつもりでいく必要がある。1500mは自分のペースを見失わずに、自分の力を信じていくのがカギになるのかなと思います。決勝は高い確率でハイペースになると思うので、その場合は頭を空っぽにして食らいつきたい。スローになったときは、予選と準決勝で動きのあるレースを乗り越えているはずなので、その経験を生かしてレースの流れに対応していきたいと思います」と話す。

 1500m決勝は現地時間の22日21時31分にスタート予定で、次のレースは翌日の11時10分から。インターバルは14時間ほどしかない。おそらく筋肉痛バリバリのなかで、5000m予選を迎えることになる。

「昨年はレースの流れに乗るだけでしたが、オウル・フィンランドは自分でレースを動かして自己新で勝つことができた。両方をミックスさせて、うまくレースを運びたいですね。1500mを言い訳にしたくないので、『決勝に残る』という強い気持ちで、5000一本というイメージで臨みたい。昨年のオレゴン世界陸上は5000mで決勝に残っても『戦うぞ』という気持ちの余裕がなかった。今年は決勝に残りさえできれば、伸び伸びと戦うぞという気持ちを持っていけるのかなと感じています。ブダペスト世界陸上の経験を生かして、来年のパリ五輪では上位入賞、メダルを狙っていきたい」

 プロに転向して、覚悟と本気をさらに高めている田中。中長距離種目で日本人ランナーの可能性を探っていく。