時代に合わせてしなやかに、自由に

いつも賑わう「フローリアン」は300 年たった今も変わらずヴェネチアの玄関口

 その後、ヨーロッパの他都市でもカフェがオープンし、独自のカフェ文化を創り上げていったが、共通していたのは「男性専用」だったこと。だが、例外のない規則はない――。

 ヴェネチアはヨーロッパ随一のカーニバル文化をもつ。12世紀に始まったお祭り文化はその後、仮面をつけてのお祭りに変化し、仮面舞踏会がトレンドに。

 現代では2週間ほど続くカーニバルは、かつては冬から夏まで続き、「フローリアン」はその中心地だった。階級制度によって窮屈なしきたりに縛られていた人々が(階級差を超えて話しかける事すら許されなかった)、あるいはそのような階級に属せず「フローリアン」に入ることがはばかられた人も、仮面をつけて「ほかの誰か」になることで自由に振舞えた。それは何と楽しく愉快なことだろう!

「フローリアン」の回廊をシックに装う白いカーテンとくつろぐ人々

 ——ということで、18世紀後半には女性も仮面をつけることで入店できるようになり、男女や職業の貴賤、政治的な思想の相違を超えて、聖職者や政治家まで仮面をつけて(時に仮面に隠れて羽目を外し)集う自由空間となった。

 仮面をつけることなく誰もが入れるようになった今も、その自由の気風は受け継がれ、様々な芸術やアイデアがこのカフェ空間で生まれている。