ヨーロッパの人たちにとってのカフェは、文化や歴史に根付きくらしの一部。人生を豊かにしてくれるカフェ文化をこよなく愛し、カフェ巡りをライフワークとしているエッセイストの柏原 文さんが、一度は行きたいヨーロッパのカフェを、珈琲と人生にまつわる物語と美しい写真ともにご紹介。ぜひ珈琲のお供にぜひお楽しみください(全5回)。
取材・文=Aya Kashiwabara 写真協力=飯貝拓海 編集協力=春燈社
*本稿は『ヨーロッパのカフェがある暮らしと小さな幸せ』(リベラル社)の一部を抜粋・再編集したものです。
アムステルダムのリビングルーム
「カフェアメリカン」はヨーロッパで最も洗練されたカフェのひとつだと思う。アールデコ様式の眩いばかりの装飾に、気鋭に富んだオランダ独自のスタイルが加わり、落ち着きのある素敵なカフェ空間だ。アムステルダムの建築の父と呼ばれたベルラー様式で、1902年にクロムハウトらによって建てられたホテル内にあり、国の文化財に指定されている。
50~60年代の全盛期には音楽家や芸術家のたまり場となり、地元の多くの人々にとっては初デートやお祝い事には欠かせない場所として、《街のリビングルーム》と呼ばれていた。
とりわけこのカフェを特別にしたのが、アムステルダムで初めて設置されたという、読書用の長テーブルである。すでに名を馳せていたウィーンやベルリンの華々しいコーヒーハウスの噂を耳にしたオーナーが、後に続けとカフェの中央に長いテーブルを置き、日刊紙や雑誌をずらりと並べた。
当時ベルリンの老舗カフェが取り揃えていたという600種類もの新聞や雑誌には及ばなかったにせよ、一流の新聞各種を自由に読むことができたのは画期的なことに違いなく、多くの文化人たちは珈琲を飲みながら、こぞってこのテーブルであらゆる地域、世界の情報にふれ、また時に仕事机として使用してきた。