古き良き時代の再現

壁にずらりと並ぶ額には、店の大切な歴史が収められている

 ランプひとつとっても丁寧に修復され、手入れも行き届いているアールデコの装飾を見るにつけ、アメリカ資本にも感謝せざるを得ないと思う。なにせ店内に入るなり、思わずため息が漏れる美しさなのである。

 しかし、だ。店の奥にあるこの長い読書机が醸し出すいぶし銀のオーラにはかなわない。というのも、私はこの読書机について何も知らずにカフェにいた。トイレに行く際に目の隅に入ったのだが(今は奥の目立たないところにある)通り過ぎるのを許さない存在感を放っていたので、思わず立ち止まってしまった。後で気になって調べたところ、この読書机の物語が見つかったのである。

 このテーブルの側面には、彼が遺した言葉が刻まれているという。

“What isn’t read, isn’t written. What isn’t heard, isn’t spoken. What isn’t seen, doesn’t exist”

(読まれないものは、書かれない。聞こえてこないものは、語られない。見えないものは、存在しない)

 この読書机が目に留まり、その記事を読み、今書いている。聞いてくれるあなたがいて話し、それはまた誰かに語り継がれるかもしれない。ここに読書机はその姿を現し、我々の心に蘇る——。

 あなたの心に眠っている大事なものはありますか。

 

Café Américain
Leidseplein 28, 1017 PT Amsterdam Netherlands

柏原 文・著『ヨーロッパのカフェがある暮らしと小さな幸せ』(リベラル社)