3リッター(2992cc)の120度V6に2基のターボと1基の電気モーターを付加した296GTBは、2019年に発表されたSF90 につぐ2台目のフェラーリ製PHEVであり、そのセミ・オートマチックの8段ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)をSF90用とシェアしている。とはいえ、バック・ギアを持たずに、電動機の逆転によって後退する仕組みになっていたSF90にはなかった後退ギアが追加されるとともに、前進用の各ギアもショート化されているというちがいがある。そのギアリングは、瞬発力を重視したものだ。
そして、SF90 が3基の電気モーターを搭載して前輪をも駆動する4WDであったのにたいして、296GTBは後輪のみを駆動する。120度の広いバンク角を与えられたV6は、SF90の90度V8(F154系)とはまったくの別物の新開発エンジンでもある。
エンツォ・フェラーリはかつて、12気筒以外のエンジンをフェラーリのロード・カーに載せるつもりはないとうそぶいていた。おかげで、フェラーリのエンジニアが設計したV6やV8のエンジンをミドに積んでも、ディーノ246GTや308GT4は当初、「フェラーリ」のブランド・ネームを与えられることはなかった。しかし、246GTの事実上の後継車となった1975年デビューの、V8搭載の308GTBは、はじめからフェラーリ・ブランドとして発売された。V6ハイブリッドの296GTBも、デビュー時からフェラーリを名乗る。遠くディーノ246GT一族、そして308GTBを祖先として。
ちなみに、フェラーリのエンジニアたちは、296GTBのV6を「ピッコロV12」といっているという。気筒数こそV12の半分ではあるけれど、120度V6はV12とおなじく等間隔爆発を実現しており、その点では、SF90 などのV8族よりも、250LMや250GTなどの古典的なV12族に近い。時代の要請にしたがって、現代の技術でV12を「語り直し」たのが、このV6である、といってさしつかえない。
296GTBとは──より詳しく
296GTBのアルミニウム製のシャシーは2名分のシートをかかえる。その背後に完全新設計の2992ccのV6DOHCをマウントするのだが、Vバンクの角度を120度にしたのは、ひとつには重心を低めるためであり、もうひとつには等間隔爆発を実現するためであった。くわえて3つめに、この2つのバンクの間にIHI製ツインターボを押し込み、スペースを有効活用して、ターボ・ラグを最小化したのである。このV6と8段DCTギアボックスとのあいだには、フライパンほどのサイズの電気モーターがサンドイッチされてパワー・トレインを形成している。シート背後のフロア下部に設置された重量70kgのバッテリー・パックは、167psの最高出力と315Nmの最大トルクをモーターに与え、いっぽう、V6ターボは663psの最高出力を8000rpmで、そして740Nmの最大トルクを6250rpmでそれぞれ発生して、電気モーターと合わせた296GTBのトータルの最高出力を830psにいたらしめる。
296GTBのボディ・サイズは、全長✕全幅✕全高=4565✕1958✕1187mmと、兄貴分のSF90の4710✕1972✕1186mmより145mm短く、2600mmのホイールベースは、SF90の2650mmを50mmアンダーカットする。車重はSF90の1570kgにたいして100kg減の1470kgというから、トン当たりの出力は564.6ps(SF90は636.9ps)。SF90には及ばないとはいえ、このおどろきの馬力荷重にふさわしく、0-100km/hを2.9秒で駆け抜け、330km/hの最高速をうたう。ちなみに、4リッターV8ツインターボ+3モーターを載せたSF90の総出力はきっかり1000psで、それぞれ2.5秒と340km/hという数字が公表されている。
もひとつ大事なことがある。296GTBの2600mmのホイールベースは、全長4611mmと、296GTBより26mm長いボディのF8トリブートよりも、SF90比同様、50mmも短い。フェラーリの現行ラインナップ中、ホイールベースは、この296GTBが最短なのだ。そして、前後重量配分は、フロントが40.5、リアが59.5と、ぐんと後車軸寄りだ。296GTBは、「ファン・トゥ・ドライヴ」を定義するクルマである、とフェラーリが主張するだけのことはあるスペックである。
こうしてみると、つい先ごろ発表されたスパイダー・ボディもふくむ296シリーズは、すでに受注停止になっているF8トリブートに代わるフェラーリのミドシップ・スポーツの「エントリー・モデル」のようにもおもえるけれど、マラネロはそれを否定している。3710万円からという価格帯もかんがえると、将来、296GTBよりさらにコンパクトなミド・エンジン・スポーツ・モデルが追加されるかもしれない、と期待したいが、そういうものが発売されるという確証はない。
いずれにせよ、SF90のように前輪を駆動するモーターをフロントに備えない296GTBは、フロント・フードの下に、ふたり分程度の小旅行用の荷物ぐらいなら収容できそうな、この種のスーパースポーツとしては広々としたカーゴ・スペースを有している。走り出してすぐにわかる見切りのよい視界もふくめて、日常用途にも使えそうなフェラーリなのである。