ついにフェラーリが噂されていた4ドア4シーターモデルを正式に発表した。その名は『プロサングエ』(サラブレッドの意)。お披露目の瞬間にフェラーリのホーム、マラネッロにて立ち会った大谷達也氏が世界最速リポート!
ついに完成したフェラーリ水準に合格する4ドア・4シーター
フェラーリ初の4ドア、4シーター・モデルである『プロサングエ』の発表に際して、同社のマーケティングと営業面を統括するエンリコ・ガリエラは、こんなエピソードを披露した。
「創業者のエンツォ・フェラーリは4シーター・モデルや2+2モデルをこよなく愛していました。そればかりか、エンツォはピニンファリーナと共同で4ドア・モデルを試作したことさえあります。しかし、当時はフェラーリに相応しいパフォーマンスを実現することができず、計画は断念されました」
これはいまから40年ほど前のことだが、それ以降も、4ドア・モデルの製品化は社内で繰り返し検討されてきたという。
「マルキオーネがCEOだった時代にも議論しましたが、十分な性能が得られるとの結論には至りませんでした」とガリエラ。「しかし、カミレーリがCEOを務めていた頃、『スポーツカーの性能を持つ4ドア・モデルを実現できるテクノロジー』が誕生しました。それがアクティブサスペンションです。そこで2018年のキャピタルマーケットデイ(株主などに向けて会社の経営状況や経営戦略を明らかにするイベント)でプロサングエの投入を発表しました。アクティブサスペンションがなければ、プロサングエは発売されなかったでしょう」
本当のアクティブサスペンションとは?
では、フェラーリが開発したアクティブサスペンションとは、どのようなものなのか?
自動車のサスペンションはパッシブとアクティブの2種類に大別できる。ただし市販されている自動車のほとんどはパッシブ型で、車輪が路面によって押し上げられたり、反対に押し下げられることによってサスペンションは伸び縮みする。つまり、サスペンションの伸縮状態は外的要因によって決まるわけだ。
これに対して、本来の意味でのアクティブサスペンションは、路面の変化とは関係なく、クルマ側の“意図”ないし“意思”によって伸縮状態を決められる。たとえば、路面が盛り上がっていて車輪が持ち上がる(=サスペンションが縮まる)ような状態でも、サスペンションがこれを押し返すことができるのがアクティブサスペンションなのである。
なお、一部メーカーはダンパーの減衰力を可変できるタイプのことをアクティブサスペンションと呼んでいるが、この形式ではホイールの位置を能動的に制御できないので、本来はパッシブサスペンションに分類されるべきものである。
フェラーリ・アクティブサスペンションは、車輪のひとつひとつにモーター、ギア、リサーキュレーティングボールスクリュー(長いボルトとナットを組み合わせたような構造で、ナットを回転させることでボルトを移動させる機構のこと)を取り付け、モーターの動きを電子制御することでホイールの高さを能動的に変化させている。したがって、本来の意味でのアクティブサスペンションと呼ぶに相応しい。
さらに、各車輪に加速度センサーと位置センサーを装備。これらに加えてボディに3つの加速度センサーを設けることで、ボディの状態と車輪がいまどんな動きをしようとしているかを精密に検出。それらに基づいて理想的なホイールの位置を算出してモーターを駆動することにより、安定した姿勢やタイヤと路面の接地状態を生み出すという。
同様のシステムは他メーカーからも製品化されているが、それらの多くはコーナリング時におけるボディの傾き(これをロールという)や前後の加速度が加わったときのボディの傾き(これをピッチという)を打ち消すことを最大の目的としているが、フェラーリは、ドライバーの自然なフィーリングを優先してロールやピッチをほどよく残すいっぽう、タイヤのグリップ力を最大限引き出す方向でホイールの位置を制御する模様。こうすることで、ボディの姿勢を安定させるとともにタイヤが確実に路面を捉え続けるようにし、重心が高い4ドア・ボディでありながらスポーツカーの走りを実現したと主張する。
「盛り上がった路面を勢いよく通過すると、クルマはジャンプしそうになりますが、プロサングエはボディが浮き上がりません。反対に路面の穴にタイヤが落ちてもいや振動は伝わってきません。これがアクティブサスペンションの効果です」 ガリエラは誇らしげに、そう説明した。