いよいよフェラーリ『296GTB』のステアリングを握る。音もなく目覚める『296GTB』。果たしてこのフェラーリの実力は?
オン・ザ・ロード ── パート1
テスト車は、左ハンドルで、ロッソ・イモラと呼ぶらしいやや深めのレッドにマイカ塗装されていた。キャビンは、ダッシュボード下端やドアの内張りとシート・サイドに赤い差し色を挟み込んだブラック基調の、スパルタンとはいわぬまでもごくシンプルな印象で、贅沢感を強調するための過度な飾りはなく、テスラ・コンプレックスというほかないタブレット風ディスプレイがダッシュボードを占拠していないのがいい。
PHEVの296GTBには、ハイブリッド・カーならではの、エンジンとモーターのパワーモードを切り替える「eマネッティーノ」のスイッチがあり、それはデフォルトでは「ハイブリッド」モードを選択ずみである。それゆえ、エンジン・スタート・ボタンにタッチして、エンジンをかけたつもりでも、V6ターボ・ユニットは目覚めない。獣の咆哮に身構えていると拍子抜けだ。
この「eマネッティーノ」には、ほかに①純EV走行モードの「eドライブ」②エンジンが常時稼働しつつバッテリーの残量維持のためにもパワーの一定程度を供給する「パフォーマンス」、そして③バッテリーの再充電を抑制し(つまり、エンジン・パワーのすべてを走行に費やし)、バッテリー・パワーがあるかぎりモーター動力も走行のみに振り向け、最大パフォーマンスを発揮するための「クオリファイ」のモードがある。デフォルトの「ハイブリッド」の場合は、バッテリーに十分な余裕があるときは積極的にEV走行して燃費をかせぐ(CO2の排出を抑える)。ちなみに、「Eドライヴ」での航続距離は、バッテリーが満充電であれば最長25kmという。
フェラーリ・ドライバーにとってはおなじみの、車両制御機能の切り替えをつかさどる「e」のつかない「マネッティーノ」のダイアル・スイッチを「スポーツ」にしてスタートした。こちらには、ほかに「ウェット」「レース」、そしてすべての電子制御機能を解除する「オフ」のスイッチがあるのは、他のICE推進のフェラーリと同様である。
六本木の、フェラーリ・ジャパンの地下駐車場スペースを無音でスタートしたあとすぐに、ICEでバッテリーを充電しながら走る「チャージ」モードを選ぶと、V6ターボがヴォンッと目覚め、しかるべきエンジン音が轟いた。なんだか気分が落ち着く。エンジンがしゃべらないフェラーリは、やっぱり「らしく」ないから。
駐車場のあるビルから首都高速道路の渋谷入口までは3kmあるかないかの、3車線の一般道である。そこを500メートルぐらい走っただけで、僕は、このクルマのあまりのデキのよさにすでに驚嘆し、そして首都高速道路に進入して箱根をめざすモーターウェイを数キロメートル後にしたところでは、そのすばらしさをなんと表現すべきか、とかんがえはじめていた。