所蔵の国宝7件をすべてお見せする

 静嘉堂文庫美術館の新たなスタートを飾るのが、開館記念展「響きあう名宝―曜変・琳派のかがやき―」。同館が所有する7件の国宝すべてをはじめ、静嘉堂コレクションを代表する名品を一挙公開。「静嘉堂コレクションの嚆矢―岩﨑彌之助の名宝蒐集」「中国文化の粋」「金銀かがやく琳派の美」「国宝《曜変天目》を伝えゆく―岩﨑小彌太の審美眼」の4章で構成されており、次から次へと現れる“眼福”に静嘉堂の底力を感じた。

 名品のなかでも、圧倒的な存在感を放っていた作品をいくつか。第2章「中国文化の粋」では、国宝 因陀羅筆・楚石梵琦/題《禅機図断簡 智常禅師図》に目が釘付けになった。描かれているのは、樹下に腰をおろした老僧・智常禅師が、文官・張水部に進むべき道を示す場面。神妙な表情で語りかける文官と、にこやかな老僧の表情の対比が楽しい。老僧が道を指し示すために伸ばした右手人差し指の描き方も、独特の柔らかさがあって、思わず微笑んでしまう。

国宝 因陀羅筆・楚石梵琦/題《禅機図断簡 智常禅師図》元時代(14世紀) 前期展示

 牧谿《羅漢図》は、日本の水墨画に大きな影響を与えたといわれる作品。白衣の羅漢のもとに大蛇が忍び寄るが、羅漢は一心不乱に瞑想に耽り続ける。その羅漢の内に秘めた熱い心と、山奥の冷たい空気。目に見えないものが巧みに表現されている。

 第3章「金銀かがやく琳派の美」では、琳派の創始者の一人である俵屋宗達の国宝《源氏物語関屋澪標図屏風》がハイライトだろう。『源氏物語』の第十四帖「澪標」、第十六帖「関屋」を題材にした作品で、宗達ならではの豊かな色彩感覚とデフォルメ力が堪能できる。

 国宝 俵屋宗達《源氏物語関屋澪標図屏風》江戸時代・寛永8年(1631) 前期展示

 そして、同じ展示ケースに収められた鈴木其一《雨中桜花楓葉図》にも心惹かれた。山桜と紅葉を描いた双福の掛軸で、雨にうたれる枝のしっとりとした情感が味わい深い。琳派の装飾性と其一特有の柔らかさがバランスよく同居している。

時代を超えて琳派を並べた展示は見事。右から尾形光琳《鵜舟図》江戸時代・18世紀、酒井抱一《麦穂菜花図》江戸時代・19世紀、鈴木其一《雨中桜花楓葉図》江戸時代・19世紀