フィンランド大使館商務部の上席商務官として、ファッションとライフスタイルを担当するラウラ・コピロウ氏に「フィンランドのラグジュアリー」というテーマで話を聞くシリーズ。中編では自然との付き合い方からジェンダーやルッキズムなど、フィンランド人の根底にある価値観を紹介する。

文=中野香織 

©︎Visit Finland / Anneli Hongisto

フィンランド人の自然とのつきあい方

——前回、「ブームになるずっと前から、幸せにつながる要素としてサステナビリティを大切にしていました」と伺いましたが、その根底にはなにか、フィンランド特有の哲学や人生観があるのでしょうか?

ラウラ 自然との共存が幸せにつながるという哲学です。みんな一緒という考え方があります。休暇にはサマーコテージへ行きます。コテージといっても、別荘のようなものもありますが、素朴な家も一般的です。私の家族のサマーコテージは10年前までは電気も水道もWi-Fiもありませんでした。今もシャワーはなく、サウナと湖で体を洗います。何をやるにも時間がかかり、苦労するのですが、素朴な生活が気持ちいいんですよね。企業のトップもそんな休暇を送っています。

フィンランドを代表するリビングウェアブランド「Iittala」(イッタラ)の表参道ショップで商品を眺めるラウラ・コピロウ氏

——日本でもサウナブームですが、サウナって本来、そんな風にサバイバル術の一つとして使うものなのですね。

ラウラ ITとサバイバルスキルを備えていたら最強ですよね。「自然とつきあう」というと「あ、私もスノボ好きです」と言われたりするんですが、レジャーというより、自然と一緒に生きる感覚が大切かと思います。

 

女性に得意料理を聞くのはタブー

——ITスキルとサバイバルスキルを兼ね備えたトップには女性も多いのですが、政治家を筆頭に、みなさんナチュラルですよね。

ラウラ エリートがいなくて「みんな一緒」という感覚なのです。

——だからことさら「女性」をアピールするような原色スーツも真っ白スーツも着ない、着る必要もないというわけですね。

ラウラ 女らしさや男性らしさをアピールするのはあまりよしとされないと思います。自分らしさが大切です。個人の好みとして花柄が好き、ということはありますが、女性らしさとして選ぶわけではありません。

「Iittala」表参道ショップ併設のカフェ

——男女間の駆け引きはいかがでしょう? デートの場面で男性が女性におごるとか、そういう西洋発の暗黙の”ルール“みたいなものはどうなっていますか?

ラウラ 男性だから女性におごるというのは、ぜったいにないです。誘った方が払う。あるいは「自分が食べた分だけ払う」のが当然です。かつて、日本の暗黙のルールを知らなくて、日本でデートしたときにフィンランド式に「食べた分を払う」と言い張って、すごく相手を傷つけてしまったことがあります(笑)。

——女性の分を支払うことを喜びとする男性も少なくないですものね……。そのほかにジェンダーに関わる場面でタブーみたいなことはありますか?

ラウラ 女性に対して「得意料理はなんですか?」と聞くと顰蹙を買いますよ。女性には絶対聞かないです。女性は料理をするものだという前提に立った質問だと思います。一般的なルールとして、男女問わず人の見た目について何もコメントしないです。可愛いも言わないし何にも言わない。誉め言葉のつもりで言った言葉で人を傷つけることもあります。

——ルッキズム(見た目によって人を価値づけること)からの完全な卒業ですね。

ラウラ 日本も変わりつつありますよね。先日、マリメッコの派手なワンピースを着ていたら、ある企業の方がものすごく面白い前置きを言いました。「いまから私が言うことは、あなたが女性だから言うわけではないですよ」。そう前置きしてから、「そのワンピース、すっごくかわいい」って。

——セクハラにあたらないように気を使いまくっていらした(笑)。

ラウラ 家族のなかでも、誰が何をするかはジェンダーで決まるわけではなく、適性で自然に決まります。たとえばうちは父がアイロンがけなどの家の中の仕事が好きで家事をやり、母がリーダーシップを取っている感じなのですが、それは単にそれぞれが好きなことをしている結果そうなっている、というだけです。