文=酒井政人
箱根王者・青学大が席巻
関東インカレの男子は1部(16校)と2部にわかれてレースが行われる。今年正月の箱根駅伝でシード権を獲得した大学でいうと、1部が順大、東洋大、中大、法大の4校。2部が青学大、駒大、東京国際大、創価大、國學院大、帝京大の6校になる。長距離種目に関しては1部よりも2部の方が激戦といえるかもしれない。
今年の2部は箱根王者・青学大が席巻した。活躍した選手たちの話を聞くと、アオガクの〝強さ〟の理由がわかったような気がする。
初日の10000mはエース近藤幸太郎(4年)が欠場するも、岸本大紀(4年)が28分28秒94で2位。ラスト勝負でノア・キプリモ(日本薬科大4)に遅れたが、日本人トップに輝いた。関東インカレは1年時の5000m以来3年ぶりの出場となった岸本は、「このレースに懸けていた」という。
「トラックでいいレースができたことがないので上位でゴールしたいと思っていました。それを体現できて良かったです。青学は駅伝だけじゃないことを見せられたかな」
岸本は2020年の箱根駅伝2区を日本人1年生歴代最高となる1時間7分03秒(区間5位)で走破した逸材だ。しかし、2年時は故障の影響でメンバーに入ることができず、3年時は近藤に2区を譲るかたちになり、7区で区間賞を獲得した。
「2年目は本当に走れなくて、3年目も故障があり、近藤に負担をかけてしまった。でも自分がエースだという自覚はあります。今後は10000mで27分台を目指して、駅伝シーズンでは青学のエースとしての走りを体現したい」
近藤へのライバル心が岸本をさらに強くしたようだ。
選手層の厚さと、強烈な〝競争意識〟
初日の10000mで勢いがついた青学大は1500mで山内健登(3年)が優勝。ハーフでは西久保遼(4年)、横田俊吾(4年)、田中悠登(2年)がトリプル入賞(3、5、7位)を達成した。5000mは鶴川正也(2年)が13分55秒99で日本人トップ(3位)を奪うと、目片将大(4年)も6位に食い込んだ。上記の6人はいずれも今年正月の箱根駅伝を走ることができなかった選手たちだ。
1500mを制した山内は昨冬に10000mで28分34秒12をマークするも、2年連続して箱根駅伝の登録メンバー(16人)に入ることができなかった。関東インカレは希望する5000mでの参戦はかなわず、1500mでの出場となった。
「とにかく優勝できて良かったです。監督から『1500mを頑張ってこい』と言われていたので、仕事というか、任務を達成できましたね。今回5000mを走ることができず、実力差は感じていますが、青学に来たからには箱根を走りたい。今回取り組んだ1500mのスピードを生かして長い距離に移行していきたいです」(山内)
鶴川は高校3年時の全国高校駅伝1区で区間賞を獲得している選手。ルーキーイヤーとなった昨季は関東インカレ5000mに出場するも、その後は故障に苦しみ、学生駅伝を走ることができなかった。
「昨季はまったくチームに貢献できませんでした。何のためにこの部活に入ったのかわからないくらいだったので、ようやくチームのためになれたのかな。チーム内には強い選手がたくさんいます。そのなかで10人に選ばれるためには、今後も油断せずにしっかりと練習を積んでいきたい」
山内と鶴川の言葉から青学大の〝壮絶なレギュラー争い〟がよく理解できるだろう。さらに宇田川瞬矢が1500mで2位、黒田朝日が3000m障害で3位に入るなどルーキーたちも活躍した。
一方、関東インカレでは中村唯翔(4年)、中倉啓敦(4年)、佐藤一世(3年)、志貴勇斗(3年)、太田蒼生(2年)という箱根Vメンバーのエントリーがなかった。選手層の厚さと、強烈な〝競争意識〟が青学大の強さを物語っている。
駒大、國學院大も応戦
2部では全日本大学駅伝を連覇している駒大も注目されていた。しかし、エース田澤廉(4年)と日本選手権5000mを控えている佐藤圭汰(1年)は〝温存〟するかたちになり、前回10000mと5000mで日本人トップを奪った唐澤拓海(3年)も出場しなかった。駒大は10000mと5000mで青学大に完敗したが、ハーフで意地を見せる。昨年は西久保との同タイム決戦に敗れた花尾恭輔(3年)は青学大の選手をずっとマークしていたという。そして青学大勢を撃破。西久保にも5秒先着して、2位でフィニッシュした。
「西久保さんには学生個人選手権10000mでも負けていたので、1勝できたことは良かった。今年は駅伝3冠を目指しています。監督からは『3年生がキーマン』と言われているので、自分がしっかりと引っ張っていきたいです」と花尾。ハーフでは主将・山野力(4年)も青学大勢2人を抑えて4位に入った。
青学大と駒大に強烈なライバル意識を持っている國學院大の活躍も光った。10000mでは平林清澄(2年)が序盤からノア・キプリモ(日本薬科大4)と交互にレースを引っ張り、攻めの走りを見せた。ラスト1周で失速したが、自己ベストの28分36秒32で6位。終盤に順位を上げた主将・中西大翔(4年)が5位に入った。
そしてハーフでは伊地知賢造(3年)が完勝する。15km過ぎてペースアップすると、そのままトップをひた走り、1時間2分50秒で制した。鶴元太(2年)も8位に入り、大激戦の長距離2種目でマルチ入賞を成し遂げた。
「集団が大きかったので少し絞ろうと15kmで一度仕掛けたんですけど、離れてくれたので、そのまま自分のペースを刻みました。青学大と駒大は箱根駅伝で負けた大学。そこに勝つのが自分の仕事だと思っていました。こういう舞台で高校時代は相手にならなかった選手たちに勝つことができましたし、土方さん以来の優勝なのでうれしいです」(伊地知)
國學院大勢のハーフ優勝は2019年の土方英和(現・Honda)以来。当時のチームは出雲駅伝で初優勝を飾り、箱根駅伝ではチーム最高順位となる3位に入った。ロードシーズンに続き、関東インカレでも結果を残した國學院大。その期待値はさらに高まっている。