ジンだけではなくウォッカもつくることにしました。コロナのパンデミックの前にロシアに出張したことがあったんです。ウラジオストクでロシア人と話をしていたら、なぜ日本でクラフトウォッカをつくらないんだ、こんなに素晴らしい酒をなぜつくらないのか? と言われたんですね。そうか、ウォッカは世界的に飲まれているんだな、ということが心に残っていました。
調べてみたら、ウォッカのルールってすごく簡単なんですよ。蒸留した高濃度アルコールを白樺の活性炭で濾過すれば、それがウォッカなんです。ウォッカって結構単純だなと。そこですぐに思い出したのが、岩手県は炭の生産量が日本一だということです。隣の久慈市に平庭(ひらにわ)高原という高原があって、そこに白樺の林が広がっています。知り合いの林業会社に平庭高原の白樺の炭がたくさんあることがわかり、その炭を使うことにしました。
岩手県の日本一の漆を使ったジン、日本一の炭を使ったウォッカ。両方とも岩手の日本一を使った、岩手でしかつくることのできないお酒です。日本酒の「南部美人」ともに、岩手の「日本一」のスピリッツを世界の人たちに届けたいと思います。世界のさまざまな食生活の人に飲んでいただきたいという願いから、日本で製造されるジン、ウォッカの中では初めて完全菜食主義者「ヴィーガン」の国際認定も取得しました。
地域の農業にとってもプラス
──ジンとウォッカはコロナ禍のなかでの新事業ですが、最初から事業として始めたわけではなかったのですね。
消毒アルコールをつくって医療的ケア児の皆さんと出会わなければやっていません。消毒アルコールをつくり続けることがそもそもの目的だったんです。でも、それでは利益が出ませんし、いつまで続けられるか分からない。だから、ジンとウォッカをつくることになりました。それが新しいビジネスにつながっていったということです。狙ってやったわけじゃなかったんですよね。
でも、やるからには本気でつくって、本気で売っていきたいと思います。コロナ禍で飲食店も日本酒業界も大きなダメージを受けています。何もせずに立ち止まって、ただやり過ごすわけにはいきませんから。
──新事業は、地域のためにもなっていますね。
そうですね。原材料に県産品を使っていますし、何よりも契約農家の酒米を余らせずに使えたのは大きかったですね。農家にお米を返すことも、減反してもらうこともありませんでした。農家に安心して酒米をつくり続けていただけるようになったのは、地域の農業にとってものすごくプラスになりました。だから結果的にすごくよかったと思っています。