超法規的措置で消毒アルコールを販売

 ジンとウォッカの製造は創業119年目のベンチャー事業になります。当初はそんなことをやるつもりはまったくなかったんですよ。なにしろコロナで大変だったんです。飲食店の休業や時短、お酒の提供禁止などで日本酒の販売は大打撃を受けました。一昨年(2020年)の春先は売り上げが半分ほどに落ちてしまったくらいです。だからその時点でなにか新しいことをやろうなんて気持ちにはなりませんでした。とにかく何とか会社を守らなければいけないという、むしろそっちの思いの方が強かった。

 そんな時期、世の中ではマスクが一斉になくなりましたよね。マスクとともになくなったのが消毒アルコールです。並んでも買えないし、ネットでは転売商品が何十倍もの値段で売られていたりする。そうした状況を見て、消毒アルコールならば我々にも提供できるんじゃないか、と考えたんです。

 けれども国税庁に話を聞くと、消毒アルコールをつくって販売するにはスピリッツの製造免許が必要になるというんですね。私たちが持っている日本酒の免許では、消毒アルコールは売れない。スピリッツの免許を取るのにはどんなに早くたって3カ月ぐらい、下手すれば半年以上になるというんです。そんなんじゃ間に合いません。今すぐ必要とされているんだから。私たちのところにも、病院や医療関係者、一般の方から「南部美人に消毒アルコールはないのか」「日本酒をアルコールに使えないのか」というお話がいっぱい来ていました。でも日本酒じゃアルコール度数が低くてダメなんですよ。

 消毒アルコール不足は医療現場で深刻な問題になっていました。その状況に対してさまざまな人たちが「なんとかしてほしい」と声を上げました。そうした声を受けて、特例的な措置が打ち出されました。厚労省、国税庁、消防庁などが横に連携して、日本酒の免許で消毒用の高濃度アルコールを販売することを超法規的に許可したんです。

 日本酒には、米、麹と水だけでつくる純米酒のほかに、原料用アルコール(醸造アルコール)を加えたお酒があります。その原料用アルコールというのは、アルコール度数99%の状態で蔵に運ばれてきます。それを水で希釈して30~40%の濃度にしてお酒に加えています。

 通常は、原料用アルコールを私たちが売ることはできません。でも政府はコロナ対応の特例措置として、原料用アルコールを60~70%ほどの状態に希釈して消毒アルコールとして売ることを許可したんです。その措置のおかげで私たちも販売できるようになりました。そして2020年5月に、手指消毒用アルコールの代替品として利用できる高濃度アルコールを発売しました。

2020年5月に発売した「南部美人アルコール65」