今、ジャパニーズウイスキーの人気のおかげで、ジャパニーズクラフトジンも海外で非常に人気が高いんですよ。また、その国の外国人が訪れるような和食レストランには、たいていバーがあります。そういうところでは、ジャパニーズクラフトジンのカクテルをつくりたいという要望も強いんです。だから海外の取引先が「売れるよ」と言ってくれるのは、本当にそうなんだろうなと思います。
余った酒米をスピリッツに
「ジンをつくって、これだけ売っていきます」という計画を立てて、もう一度銀行に説明しようと思っていたら、たまたま農水省から、こんな補助金があるから使いませんかという話が舞い込んできました。「コメ・コメ加工品輸出拡大緊急対策整備事業」への補助金です。事業資金の3分の2も出るんですよ。結局、その補助金を使って蒸留所を建てることになりました。もちろんスピリッツの免許も取得しました。
補助金は「コメ・コメ加工品の輸出」が対象です。なぜ我々のジンが「コメ加工品」なのかというと、酒米を使ってつくるからです。通常、ジンは麦とかトウモロコシでつくるんですが、我々は「ぎんおとめ」など地元の酒米を使うことにしました。
その年(2020年)の夏ごろ、コロナで日本酒が売れないため酒米が余ってしまい、どうしようかと頭を悩ませていました。契約栽培で農家につくっていただいた酒米は、毎年必ず引き取らなければいけません。でもお酒をつくれないから余ってしまった。その米を使うことにしたんです。米をいったん日本酒にし、その日本酒を蒸留して高濃度アルコールをつくります。それに香りをつけてジンにする。コストがかかるつくり方ですが、酒米が余って最終的に捨てるぐらいだったらジンにするほうが断然いい。全国では、やはり酒米を余らせてしまった酒蔵さんの一部が「酒米を食べてください」と言って食米として販売していました。それはそれで素晴らしい取り組みですが、酒米にとってはやっぱりお酒になるほうが本望だと思います。
岩手にある「日本一」
クラフトジンをつくるにあたっては、もちろん岩手、二戸にこだわりたい。そこで地元の漆(うるし)を使うことにしました。二戸には、日本一の生産量を誇り、文化庁の日本遺産にも認定された浄法寺の漆があります。これをジュニパーベリー(西洋ネズ)の実などとともに、クラフトジンのボタニカル(香りをつける草根木皮)に使います。漆は樹液そのものを入れるのではなく、漆掻きした木を切って使っています。その木をいったん火であぶって、高濃度アルコールに漬け込んで蒸留しています。だから我々のジンはウッディーでスモーキーな感じの香りがします。