「やる意味があるんですか?」

 会社に戻って、消毒アルコールはこれから未来永劫つくり続けますとみんなに伝えました。今は日本酒の免許で出せているけれども、それはあくまでも特例措置です。ずっとつくり続けるためには、自分たちで蒸留してつくっていかなければいけません。そのためにはスピリッツの免許をとって、蒸留器も入れなければならない。そこまでやって消毒アルコールをつくっていこうとみんなに話をしました。

 銀行にも行きました。蒸留所を建てるのに約1億円はかかりますから融資の相談です。そうしたら、まあ、いい顔されないんですよね。「消毒アルコールは、おそらくあと3カ月ぐらい経ったらたくさん市場に出てきます。別のパンデミックが起きたら足りなくなるかもしれないけど、将来のことはわかりませんよね。1億円も投資してやる意味があるんですか?」とかなり厳しく言われました。要するに、商売として続けられませんよね? と。言われてみれば、もっともです。

 そこで思ったのが、そうか、蒸留所で消毒アルコールだけやろうとしているからだめなんだ、それ以外のものも一緒にやったらいいんじゃないか、ということです。スピリッツの免許でさまざまなお酒をつくることができるんですが、その1つにジンがありました。そうだ、ジンができるじゃないか、だったらジンをやろうと思いつきました。

 京都に専門の蒸留所ができて国内でもクラフトジンがブームになっていましたし、クラフトジンって地域の原料を使って香りをつくることで地域特性を出しやすいんですよね。我々は岩手の原料を使って岩手のクラフトジンとして売っていく。お酒づくりは、もちろん我々の得意な部分ですから、それで商売をやっていこうと。

海外の取引先から「ぜひ売りたい」の声

 すぐに国内と海外の取引先にも連絡して、ジンを扱ってもらえるか相談しました。すると、海外からぜひやってほしいという声が返ってきました。南部美人がジャパニーズクラフトジンをやるならば全面支援する、何万ケース売るよ、と言ってくれたんです。アメリカからも香港からもそういう声が来ました。

 実は、僕自身も海外で日本のジンは売れるんじゃないかという思いがありました。「ジンを外国で売るのは強力なライバルがいっぱいいて厳しいんじゃないですか」と言われるけど逆なんです。日本酒を海外で売ろうとしたら説明が2回必要なんですよ。1回目は、日本酒はこういうお酒です、という説明。その上で南部美人はこういう味です、という説明をしなきゃならない。でもジンを売る場合には、ジンとは何かという説明がいらないんですね。うちのジンはこうなんですといきなり言えるので、説明がすごく簡単なんです。