文=藤田令伊
ワイエス作品を6点所蔵する美術館
日本には47の都道府県があり、そのほとんどに都道府県立の美術館がある。が、都道府県立美術館の立ち位置はといえば、じつはなかなか難しいものがある。国立ではなく、かといって市区町村立でもないという中間的な位置づけであるため、小さな美術館のように強い個性をもたせることもできなければ、大きな美術館のように総合力でドーンと勝負することもできない。
さらに民間ではなく公立の施設なので突飛なことをすることもできない。その一方、都道府県クラスの施設として、それなりの“格”が求められる——ということで、何とも中途半端な苦しい戦いを強いられている面があるのである。見様によっては気の毒な美術館という気もしてくるぐらいだ。
そんな都道府県立美術館でも、たまに「すごいアート」を秘かに(?)所蔵していることがある。今回ご紹介するアンドリュー・ワイエスの絵も、きっとそういうものに違いない。
ワイエスといえば、現代アメリカを代表する画家といっても差し支えなかろう。《クリスティーナの世界》という不思議なインパクトを放つ絵がニューヨーク近代美術館にあり、それがワイエスの代表作であるとともにアメリカの国宝だともいわれるくらいなのだが、同じワイエスの秀作が日本の福島県立美術館にもあることは、日本人のあいだでもおそらくほとんど知られていないのではないか。
福島県立美術館には6点のワイエス作品が所蔵されているが、なかでも私の“推し”は《ドイツ人の住むところ》という、ちょっと風変わりなタイトルの一枚である。