現代風にアレンジされたメニュー

 かつてあった系列の大手町店は惜しまれつつも2011年に閉店。当時のことを奥村さんに尋ねると「10年間はあっという間だった」という答えが返ってきた。初代、2代目が守ってきた素晴らしいものたちを継続させながら自分らしさを取り入れることで、「最近は理想の空間になってきた」と笑う。これまでの年月で、街や訪れる人たちとしっかり土台を築いてきたからこそ、奥村さんが現代の風を吹き込み、アレンジを加えてもその魅力は揺らぐことはないのだろう。

生クリームとバナナのシンプルな具材だからこそ、スタイリッシュなフルーツサンド650円

「若いときはピカピカのカフェに憧れていて『喫茶店は・・・』と思っていたこともあったけれど、今では祖母や父に感謝しています」と奥村さん。数年前に全席禁煙になったことに加えて、フルーツサンドやシナモントーストというメニューを全面に打ち出すことによって、女性客や遠方からやってくる人たちが増えたという。また、コロナ禍をきっかけに今まで行っていなかったサンドイッチや珈琲のテイクアウトを始めたことも現在の人気に繋がっている。

昨年4月より始めたテイクアウトメニュー。軽めのランチや間食にぴったりと購入していくお客様も多いとか

 あたたかい珈琲はハンドドリップで淹れられるすっきりした味、冷たい珈琲はネルドリップで抽出される濃厚な味が特徴。

すっきりとした味わいのホットコーヒーは酸味2種、苦味2種の計4種類の豆をブレンド

 アイスコーヒーのガム入りはまだ珈琲があたたかいうちにあまみをつけることによって味が馴染むのだそう。だからこそ、そのまま飲んでも十分な満足感がある。一方、ホットコーヒーはフルーツサンドやあまいものと一緒に味わうのが奥村さんのおすすめだ。

コーヒーケーキ590円。ホットコーヒーとともにいただくとさらに風味豊かに

 純喫茶や昔ながらの建築を愛している人たちにとって大変な悲報だが、stoneが入っている有楽町ビルヂングは2023年に取り壊しが決定している。物心ついた頃から馴染みのある場所が近い将来なくなってしまうのはどんなにかなしいことだろう。その気持ちを想像することはできても同じ感情を共有することはできない。stoneの未来は現時点では未定だそう。失ってしまったら二度と同じ空間を楽しむことはできないのだから、このような話を聞くたびに胸が苦しくなってしまう。

年代物のレジスターは開店当初からのもの
瓶入りというレトロさがうれしいコカ・コーラ540円、グレープ・スカッシュ750円

 最後に奥村さんにとって珈琲は?と尋ねてみた。少し考えたあとに「自分の人生ですね。放っておけない存在」と美しい笑顔で教えてくれた。Stoneの空間と美味しい珈琲、そして奥村さんの笑顔に会うためにこれからもなるべくたくさん足を運んで、隅々まで記憶に焼き付けておきたいと思った。