文=難波里奈 撮影=平石順一
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待ち合わせしたくなる空間
純喫茶好きのみならず、建築を愛する人たちからも注目されている四ツ谷の「コーヒー・ロン」。佐賀県立博物館ほかさまざまな建築物を手掛けた高橋靗一氏に師事した池田勝也氏設計の、コンクリートのひんやりした質感を感じるような外観は、時を経てもモダンで見惚れてしまう。
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少し重たい扉を開けて中へ入ると、艶々と光る真紅の椅子がずらりと並んでいる。上を見上げると吹き抜けになっていて解放感があるのが特徴。
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作家の井上ひさし先生が頻繁に通っていたことでも知られるこちらでは、テーブルに並んだときの淡い色合いが好きでたまごサンドとミルクセーキを注文することが多かった。
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今回はそんな中でも何度も味わっていた珈琲について、細かな話を伺った。
「ネルの袋は自分たちで手作りしているんだよ。以前は業者から購入していたけれど作ってくれるところがなくなってしまったから」と聞かせてくださったのは、現在二代目を務める小倉洋明さん。
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ネルの素材の毛足の長短で味が変わることを教えてくれ、布の状態も見せて下さった。ペーパードリップの台頭は1970年頃だそうで、当時、珈琲の淹れ方といえばネルかサイフォン。ロンでは開店当時からずっとネルで淹れているという珈琲へのこだわり。
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かつて、ビジネス街にあった純喫茶はみんなそうだったように、昼時には近隣のサラリーマンたちが押し寄せ、わずか30分足らずで50~60杯の珈琲がなくなってしまうほど混みあっていた様子。現在は家族と女子大学生のアルバイトで営まれているが、当時はアルバイトの人数も多く、ホールには3名、キッチンには2名という体制で、なんと寮も完備していたそうだ。今ではなかなか考えにくいが相席も当たり前で、決まったお気に入りの席を好む常連たちはそこが埋まっていると空くまで待っていたという。
また、その頃は多くの人たちが珈琲には必ず砂糖をスプーン2杯入れて甘くして飲んでいたというのも面白い。砂糖が貴重だったころの名残なのだろうか。洋明さんはたまにホットコーヒーにミルクと砂糖をいれて飲むそうで、「まずはストレートで、そのあとに砂糖を加えて最後にミルクで味を変えると3回楽しめるよ」と薦めてくれた。
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ロンではホットコーヒーもアイスコーヒーも飲んでいたはずなのに、今回知って驚いた事実があった。それは、豆は同じものを使っているが、ホットはアメリカンローストの中煎り、アイスはフレンチローストの深煎りと焼き方を変えていて、同時に飲んでみるとその味わいはまったく異なるものだったこと。強めの酸味を感じるホットに対して、アイスは程よい苦みを感じる爽やかさ。一杯ずつ注文していたときには違いは分かれど、気にしていなかったことだった。
「ほかのお店はわからないけれど」と前置きしたうえで、ロンの珈琲はたくさん点てて温め直すと酸味が抜けて美味しくなるというのが洋明さんの持論だ。冷めたお湯だと泡だってしまうため、ロンでは100度近いお湯を使って淹れているというのも個性的。「そのほうが香り良くて、これが『ロンの味。ロンの個性』」という。
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最後に、洋明さんにとって「珈琲とは何か」と尋ねてみた。「全てにおいて生活の一部だね」と長い年月同じ場所で店を守ってきた人ならではの深い言葉。隣で会話に加わって下さっていた真智子さんにも同じ質問を投げかけてみると「ないと生きていけないもの」とほほ笑む。
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珈琲を愛する人は珈琲に愛されるのだ。そんなことをひしひしと感じた有意義なひとときだった。
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