文=難波里奈 撮影=平石順一

半世紀経っても色あせない内装

 オフィス街にある純喫茶は、かつて敷居が高いような気がしていた。立派なスーツに身を包み、落ち着いた佇まいで話をしているサラリーマンたちはどこか違う時空で活動しているような印象を受けていたせいだろうか。しかし、年を経て自分もその中に違和感なく混じれるようになった。

 “ヂ”の表記に惹かれてしまう「有楽町ビルヂング」の1階にあるのは創業1966年の「stone」。初代が営んでいた石材店のショールームを兼ねていたことによって造ることの出来た、黒と白を基調としたクールな色合いの内装は今見ても唯一無二のモダンさ。

時を経てさらに重厚感が増した壁面

 御影石でできた壁面、一見タイルのように見える割った大理石をひとつひとつはめこんだ床。現在は安全性の問題から撤去されてしまったが、少し前まで天井から吊り下がっていた鉄の飾りなど、ぐるりと見渡せばいたるところに職人の技術とセンスを感じることができる。

白と黒の大理石がひとつひとつ嵌め込まれた床

 現在この空間を守るのは三代目の奥村眞世さん。20歳の頃から手伝いで店に立ってはいたが、2011年に2代目だった奥村さんのお父様が「もう店を閉じることにした」と決めたあと、様々な葛藤や悩みを越えて継ぐことにした。

笑顔の絶えない店主の奥村さん