あらゆる感覚を刺激する、起伏のある料理

“コース料理とは、感情の起伏をつくるもの”だと鳥羽シェフは語る。

「sioのコース料理は、感情を揺さぶることを意図して“編集”しています。それは、たとえるならば映画と同じ。コースが進むうち、感情の起伏が生まれ、やがて感動のクライマックスを迎えるのです。それは“緻密な因数分解”の上で成り立っています」

 たとえば最初に出てくるsioのスープは、「薄い」。「具もない」。その1品だけでは料理の意図が伝わるべくもない。しかし、2皿目、3皿目・・・と、あらゆる感覚を刺激される起伏のある料理が演出されることで、最高の感動にたどり着くことができるのだという。

sioの2021年3-4月のコース料理の一部

 店の内装、香り、音楽、会話……。さまざまな要素が影響しあい、未踏の感動を体験できるのが鳥羽シェフのもてなしの美学だ。そこに多くのファンが魅了される。

「美味しい、という感覚はめちゃめちゃ主観ですよね。この料理が好きだという人がいれば、苦手だとという人もいる。10人いれば10人違って当たり前です。でも、“気持ちいい”という感覚はある程度共通。たとえば暑い日、のどがカラカラに乾いているときに飲む冷たい水は美味しい。そんな“気持ちいい感覚”を逆算して、ロジカルに皿の上につくっていくことが感動の食体験となります」

 たとえば脂っこい豚肉のステーキのわきには、ちょっと酸っぱいサラダがあったら気持ちいい。では、サラダではない酸味のある別のものを合わせたら・・・? 鳥羽シェフはそんな頭に浮かんだ情景をベースに食材をアレンジして組み立てるため、一見、「え、なぜこの組み合わせ!?」と驚く斬新な食材の組み合わせでも、不思議とピタリとはまるのだ。そこには五味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)が織りなす物語がある。

「料理のボリュームを決めるのは、食材のうま味です。うま味は、すべての味を背負うための“リュックサック”。うま味のリュックサックが大きければ、その輪郭に沿う分だけの塩を使います。さらにバランスをとるために苦味も入れられます。うま味のボリュームが少ない白身魚などは軽めの塩と酸味、スパイスでカルパッチョなどに。食材にうま味にたいして塩がオーバーすると、それは食材の味ではなく塩味になってしまいます」

 また、甘味は全体をまるくする。たとえば、すき焼き。砂糖を入れなければしょっぱくて食べられないだろう。しかし、砂糖が入ったとたん、醤油の量は同じでも急激に美味しくなる。五味にさらに香りや辛さ、さまざまな食感を組み合わせることで3Dの味の設計図をつくる。

 鳥羽シェフの料理は、「気持ちいい」。それは緻密な計算に基づいた設計図があってこそのものなのだ。

 

鳥羽周作 (とばしゅうさく)
「sio」オーナーシェフ。1978年生まれ、埼玉県出身。Jリーグの練習生、小学校の教員を経て、32歳で料理人の世界に入る。2018年オープンの代々木上原「sio」はミシュラン一つ星を2年連続獲得。業態の異なる6つの飲食店を運営。店のレシピを公開した #おうちでsio が話題になる。『幸せの分母を増やす』がモットー。